さよなら虚像

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私の家はいわゆる芸能一家と呼ばれるものだった。 歌手の父にモデルの母、俳優の兄。 家は無駄に広く、いたる所に輝かしい功績がこれ見よがしに飾られている。 そんな家に生まれてしまったからには選べる道なんて無いに等しい。家族も世間も。皆が私に芸能界(そっち側)に行くことを期待した。私には選択肢も拒否権も存在しなかった。 それでも私はそっち側には行きたくなくて。 泣いて。喚いて。やりたくないと駄々をこねた。 私の中で一番親に反抗したのはあの時だったと思う。それくらい嫌だったのだ。だけど周囲の人間はそれを許さなかった。私は両親から容姿も才能も。余すところなく、引き継いでしまったから。 「芸能界で輝くために生まれてきたのだ」 「芸能の神様に愛されているのだ」 口を揃えて言われる薄っぺらい言葉に殴られ続けて。 「お母さん、みきちゃんと親子共演してみたいなぁ。ねぇ、少しだけ頑張ってみない?」 「そうだぞみき! お前には才能がある! お父さんもいつかみきと一緒にステージで歌えたら嬉しいぞ!」 「俺もみきとドラマとか映画とか出たい!」 悪意はない家族の言葉に容赦なく突き刺されて。 やりたくない理由が理解されない私の反抗は無いものと変わらなかった。 ……才能があるからなんだと言うのだ。 才能があったら絶対にそれをしないといけない決まりでもあるのか。 そんな私のちっぽけな嘆きは、圧倒的な数の暴力によって黙殺される。 逃げ場なんて無くなっていた。だから少し、やけになったんだと思う。 私は頷いてしまったのだ。 少しだけならやってみる、と。自ら足を踏み入れてしまったのだ。 そこからはあっという間だった。 気が付けば事務所に所属していて。 気が付けば子役としてデビューさせられていて。 気が付けば天才子役だ何だとメディアに騒がれて。簡単にやめるなんて言い出してはいけないことを子供ながらに察してしまった。 だったらせめて仕事が来なくなればいいと、毎日神様に祈ってみたけれど。私の願いとは裏腹に、悲しいくらいたくさん仕事が舞い込んでくる日々。 話題性と才能。 私はこれ以上ないほど、都合のいい条件がそろっていた。 だったら早く成長して、子役と言う枠組みから外れて終わらせたいと願っても。またしても周りの人間がそれを許さなかった。 絶望した。私は一生この世界から逃げ出せないんじゃないかと。
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