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「……な、なんでだろ」
「は?」
「……いつ?」
「んー、真剣に思ったのは去年の今日かな」
「そ、か」
「事故チューと見せかけてわりと狙ってやった説ある」
「え」
徐々に近づいてくる距離。額が触れ合って、間近に迫る瞳に自分が映っているのを確認した。その距離を保ちながら、湊くんは楽しげに話を続ける。
「お前がさ、酔っぱらいながら言った『湊くんさあ、あの歌の途中で一瞬テンポ変えたでしょー、分かっちゃったもんねー』にやられた」
「そこ?私全然覚えてないよ」
「だろうな、引くほど爆笑しながら言ってたし」
「……そこでなんでやられたのか分かんない」
「気づいたのが、お前だったのが、めちゃくちゃ嬉しかったから」
トントントン、とリズムを刻むように、湊くんの指が私の手を軽く叩く。8音符。そして自然な流れで16分音符への切り替えられた時に思わず顔を上げれば、今まで見たことないくらいの優しい顔。
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