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——あのとき殺した最初のショーシンは、隣のクラスの長谷部という男子だった。
サッカー部の人気者で、ショーシンになる一週間前にハナエに告白し、フラれていた。行方不明になった理由を、最上とハナエ以外の人間は知らない。
それから、最上はハナエに言われるがままに八体のショーシンを殺した。ショーシンを殺すと、その魂を糧にしてハナエは蘇える。
その美貌を前よりも増して。
ショーシンは、ハナエの美しさのための生け贄だ。
「俺は、お前のためにショーシンを殺し続けなければいけないのか?」
最上は、うんざりとした顔でハナエを見た。
「私のためじゃなく、人々のためによ。怪人を倒すのが、ヒーローの役目でしょ?」
「俺は……ヒーローなんかじゃない」
最上の懊悩を嗤い、
「あなたはヒーローよ。私を好きにならない、たったひとりの人間だもの」
と、ハナエが言った。
「だから俺と契約したのか?」
「そう」
「化け物め……」
「その呼び方はやめて。傷つくから」
勝手なことを言い、ハナエが屋上から飛び降りた。
眼下で血色の花が爆ぜ、胸の痛みに悶えながら最上もまた屋上から転がり落ちた。
落ちながら、最上は考える。「なぜ俺はこんなことをしているのか?」と。答えなどないのかもしれない。これは運命だ。自らこの役割を受け入れたとはいえ、後悔ばかりが脳裡を過ぎる。
契約を交わしたあの瞬間、ハナエの唇をかわすこともできた。だが、最上は自分の意志でそれを受け入れてしまったことを自覚していた。
ハナエは言った。私を好きにならないたったひとりの人間だと。確かにそのとおり、最上はハナエを好きにはならない。
好きになってはいけない。
炎に包まれ、地面に降り立った最上だったモノは、眼前で殺戮を繰り広げる小坂だったモノに視線を据えた。
「コロセ。コロセ」
頭の中に、ハナエの声が響く。
分かってるさ。分かってる。
最上だったモノに、人々が気づく。
「ホノオだ! ホノオが来てくれたぞ!」
ヒーローの登場に、歓声が上がる。
小坂だったモノが、ホノオに気がついて振り向く。
「コロシテ……」
ホノオは、裂けるほどに口角を上げた。
「アア……イマコロシテヤル」
アリの感触は、もう無かった。
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