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肇は彼の手を持って、自身のズボンの裾から入れる。
「え、何やって」
「触ってるフリして。それとも俺がやる?」
彼は首を猛烈な勢いで振る。そして、肇の太腿に手をかけ触れるか触れないかの力で伝う。肇はくすぐったさに声が出そうになった。
「うわ」
声を上げたのは彼の方であった。
「なんだよ」
「いや、肌キレイだなって」
肇から溜息が出る。
「お前マジでノンケなの」
「実は・・・女の人にあんまり興味なくて。
でも・・・」
認めたくないのだろうと肇は推測する。彼には潜在的にゲイの気質があるように思えてならなかった。しかし余計なことは言わない方がいいだろうと口をつぐむ。
「あ、その、もう行きますね」
彼は起き上がりそそくさと立ち去った。少し前屈みの姿勢の下半身にわずかな膨らみが見えた。素質が伺えたが、やはり肇は沈黙を貫いた。
しばらくして、別の男性が「隣いいですか」、と肇に話かけて来た。まあまあかな、と肇が目を合わせると、男性の方から服に手を入れてきた。その手で胸を擦りながら肇にのしかかる。男性の身体も吐息も熱かった。
「個室行こうよ」
耳を甘噛みして男性は言う。肇は頷いた。
廊下に出ると、彼とすれ違った。ギョッとした顔で肇と相手を見る。
肇は彼に気づいていたが、構わず個室のドアノブを回す。さっきの休憩室が4畳半に切り取られたような部屋だ。中に入ると、そっと、しかしあっという間に畳に転がされた。
「かわいい顔してるね」
もう興奮が混じった声だった。顔を照明で確認する間もなく、貪るように喉を、鎖骨を、はだけた肩を男性の唇が食んだ。毛穴が目立つ肌のベタつきも好き勝手に振る舞う男性の手や口にも目を瞑る。それよりも快楽への期待と興奮に目が眩んだ。
肇の作務衣の下を手が這い回り、やがて脱がされる。男性はハッとした顔をして、眉間に皺を寄せる。
「えっと、大丈夫?」
肇は痣や切り傷の存在をすっかり忘れていた。青く染まった斑点が休憩室より明るい照明で晒される。男性の顔から熱が引いていき心配そうな表情が浮かんでいた。
「平気」
肇は男性の後頭部を顔に引き寄せる。
「あ、ごめん。キスはナシで」
男性は顎を引く。肇は眉を顰める。ハッテン場でもマッチングアプリでもキスはしないという男性は少なくない。キスはセックスの延長や入り口でしかないと考える肇には不思議でならないが。
「・・・ちょっとタバコ吸ってくる」
男性は部屋を出て行った。アレはもう戻って来ないな、と肇は落胆する。先程の台詞は相手から逃げるときの常套句だ。
サウナに入ってもう帰ろうと脱衣所に戻ると、先程すれ違った彼がまだ居た。
さっさと帰れと肇は睨む。彼は目が合うと気まずそうに視線をずらして、それから肇の方に向かってきた。
「あの、早かったですね」
「逃げられた」
「えっ」
「相手してやってもいいけど」
彼は一瞬で顔を真っ赤にする。だが喉が上下に動いてた。
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