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肇は彼の手を引き、すぐに個室に戻って組み伏せる。
「ちょ、ちょっと待って」
「え、上になる?俺はどっちでもいいけど」
「いや、それは」
「挿れるのはナシで。準備してないし」
「え、それでいいんですか」
「抜けりゃいいだろ」
肇が彼の足の間に膝を差し込むと、勃ち上がりはじめているペニスの存在を感じた。ズボンの中に手を入れてそこを擦り始めると、彼の顔が一瞬引きつる。しかし続けていけば閉ざされていた口が開いて吐息が漏れ始めた。
「ヤバイかも」
時々身体をビクつかせながら、彼は荒く息をする。先走りが出てきたので肇は手の動きを速くした。彼は顎を上げた。腰が僅かに浮いている。
「イッていいよ」
「ッ、ホントに、もう出っ」
言い終わらないうちに、彼は精液を放った。作務衣にも腹にも白い液体が飛び散る。
肇は部屋の隅のティッシュの箱を彼に投げた。
「拭いたら交代な」
彼は汚れを拭き取ると、まだ息を乱しながら肇ににじり寄ってきた。
押し倒して、怖々と手を入れて胸の先を弄ってくる。しつこいくらい摘まれ、擦られ、しごかれて少し痛みが出てきた。手を掴んで下半身に誘導する。
「こっち触って」
彼は硬くなり始めた肇のペニスをズボンから取り出して、凝視しながら擦り始めた。
指が雁首に引っ掛かるたびに腰のあたりがゾクリとする。快感が肇の身体を満たしていき、堪えるように彼の背中を掴む。彼は身体を戦慄かせて、肇の首筋や耳に唇を押しつけてきた。股間の膨らみが肇の腿に当たっている。
肇は彼のズボンに手をかけて、下着ごとずり下げた。
「え?」
「勃ってんだろ?」
肇が彼のペニスを握って上下に動かし始める。
「動かして」
手の動きを止めてしまった彼を足で軽く蹴ると、また手が動きはじめる。
お互いのものを擦り合う音と、荒く息をする音だけが部屋の中に積もって、空気の密度が増していく。
肇の目の前に星が見え始めた。声が出そうになり無意識のうちに歯を食い縛る。あ、出るなと思った時にはもう腰が震えていた。それがおさまると、背中から力が抜けて床に腕を投げ出す。
「ティッシュ取って」
肇が荒く息をしながら言う。腕が怠くなり疲労が身体を重くする。箱を引き寄せて渡されたそれで汚れを拭き取った。
燻っていた欲が解消されすっきりとした気分だ。帰ろうと起き上がれば、彼は呆然としていた。
「・・・なんか、信じられない。オレ、ホントに・・・」
気まずそうに肇を見つめる。
「ああ、初めてだった?」
彼は顔を赤くする。
「ここ、よく来るんですか」
「いや、普段はアプリやってる」
「アプリって?」
ゲイアプリを教えてやると、彼はその場で登録していた。
「アカウント教えてもらっていいですか」
「いいよ。まあ、相手するかどうかは気分次第だけど」
そうですか、と彼は困ったように笑った。
個室は一緒に出たものの、肇がシャワーを浴びて脱衣所に戻ると彼の姿はもうなかった。
彼とはそれきりであった。
アプリでメッセージが送られて来ることもなく、肇のプロフィールにたまに足跡が付いているのみだ。肇も彼のプロフィール画面に飛んだが、他の男性ともやり取りをしているらしい。
しかし会えなくてもどうということはなかった。一度寝た相手と再び会うことの方が稀だ。
ただ、こっち側に来たんだな、とは確信していた。
1人の男性の性癖を狂わせたのかもしれないし、あるいは目覚めさせたのかもしれない。はたまた肇との関わりはまったく関係なかったのかもしれないがーーーーーーー
それも、肇にとってはどうでもいいことであった。
end
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