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「大丈夫」
春野は入り口に背を向けて、肇を隠すように座り直す。春野が顔を近づけるが、肇はまた顎を引いて躱してしまった。
「もしかして初めてだったりする?」
「いや、そんなことないけど」
「じゃあなんで?」
「さあ・・・なんでだろ」
本当に分からなかった。今までよほどのことがない限りセックスを拒んだことなど無い。
「ふうん。じゃあ今日はキスだけね。それならいい?」
思ったより忍耐強いヤツだな、と肇は少し感心する。
顔を上げると、春野はそっと唇を乗せてきた。食んでは口を離すことを繰り返し、丁重に扱おうとしているのが見て取れる。
「口開けてよ」
切なげな声が耳をくすぐる。ユウジが自身を欲しがっているように聞こえて肌が粟立った。
口を開け、ぬるりとした感触を感じると春野の舌を吸って捕らえた。
肇が急に積極的な態度を示し、春野は少し驚き肩を上げる。
だがそれに呼応して舌が深く侵入してきた。肇の舌に絡みつき、滑らかな側面やざらついた表面など舌のあらゆる場所を擦り合わせた。
そのうち体重をかけて春野に押し倒される。
糸を引きながら口を離せば、春野は肇の耳や首筋や胸をキスで辿った。
「いいの?」
肇のキスでのぼせた頭に悪戯っぽい声が響く。
「普通に襲ってるんだけど」
春野の目の奥がギラリと光った。
「ダメ」
「焦らすねえ」
春野は目元を緩めて肉食獣のような目の光を消した。
「わかったよ、また今度ね」
また唇を貪られる。何度も食んだり吸われたりしながら、服の下からも手が入ってくる。胸の先を弄られれば嫌でもペニスが反応する。
そこを掌全体で撫でられて、肇はビクリと身体が震えた。
春野は優しく言葉を落とす。
「セックスするまで自分でいじっちゃダメだよ、わかった?」
「ん」
返事はしたものの、守る気などさらさらなかった。
「あーもう、俺相当我慢してんだけど。分かる?」
春野の雄は屹立し硬っていた。のし掛かったまま肇のそれに擦り付けてくる。
「今日は我慢する。でも次会った時は覚悟しといて」
重なった胸から心臓の鼓動が伝わるくらい身体が密着している。暖房はそれほど効いていないはずなのに熱い。春野の身体から抜け出そうとすると、
「もうちょっと」
と抱き竦められる。
もちろんそれからは歌どころではなくなって、キスとハグだけで終わった。
帰宅すればユウジの顔がまともに見られなかった。春野とキスをした時の顔が浮かんで。もう会わない方がいいのかも知れない、と肇は思った。
キスをしただけで顔をまともに見られないのに、これでセックスなんてしたらどうなってしまうのかーーーーーー
やはり肇には分からず、漠然とした不安だけが残った。
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