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『よっ、いま時間空いてる?』
反射的に出てしまったスマートフォンから流れてきたのは、軽快かつ甘い響きの声。
それがジョンのものだと分かった瞬間、肇は通話を切った。
ジョンとはセックスする気になれなかった。彼とはつい最近ホテルに行ったばかりだ。また、連絡がある時はマッチングアプリのダイレクトメールを使うよう伝えているが、プライベートな連絡先を使ってくるところも気に入らなかった。日常生活に、正確に言えばユウジとの生活に、マッチングアプリで出会った相手が介入してくることが不快だった。
またスマートフォンが鳴った。Hated Johnの着信音。ジョンだ。鳴ってもすぐ切ることを繰り返すうちユウジに
「うるさい。カホが起きるだろ」
と言われ、寝たばかりの姪っ子を起こさぬよう廊下に出た。ようやくスマートフォンを耳に当てる。
「んだよ」
『無視すんなよ、お前今どこ?』
「家だよ」
『暇?』
「暇じゃ」
『よし、じゃあxxってラブホに来れる?』
「暇じゃねえっつってんだろ」
もちろん嘘だ。
次は着信拒否にしておこうと決意し通話終了のキーを押す。
『お前3Pって興味』
その刹那、この台詞が耳に滑り込んできた。肇の興味をそそるにはこの単語だけで充分であった。複数人でのセックスは経験したことがない。
掌の上で転がされているようで苛ついたが、肇はジョンに電話を掛け直した。
ジョンの指定したラブホテルに着くと、地下駐車場に停めてあったフィールダーの中に、本当にもう1人いた。線の細い、整った顔の青年だ。
歳の頃は二十歳前後で、肇と同い年くらいだ。
「よっ、迷わず来れた?」
ライダーズジャケットを着たジョンが運転席から降りてきた。ぴたりと体にフィットするデザインと光沢のある布地がスタイルの良さを際立たせている。
「こっちは相沢くんね、コイツはハジメ」
相沢と呼ばれた男は繊細そうな面持ちで、肇の顔を上目遣いで見る。そして会釈してきた。なんか暗そうなヤツ、というのが肇の抱いた感想だった。
「じゃ行こっか」
まだ緊張と気まずさを引きずる2人を連れ、ジョンだけが楽しそうに先頭を歩いていった。
肇は初めて来るホテルで、複数人での利用ができるか危惧していたが3人で受付の前を通っても何も言われなかった。
パネルで選んだ部屋に入ると、ベッドのサイズも内装も特に変わったところはない。
「俺3Pしたことないんだけど」
肇がジョンに言えば
「え、俺もだけど。取り敢えず交代で風呂場行ってきて」
と返ってきた。
相沢もネコやるんだ、と肇は風呂場へ向かう背中を見送った。
肇がベッドの上でスマートフォンを弄っていると、ジョンが隣に座った。肇の顔を覗き込んでニヤッと笑ってくる。
肇には色恋沙汰はさっぱりだが、セックスに入る前の気配はすぐに分かった。
溜息まじりに
「好きにすれば?」
と言えば、ジョンはキスをしてきた。服の中に手が入ってくる。途中でへばったら帰るからな、と口には出さず悪態を吐きながら、ジョンの舌と手を受け入れた。
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