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ホテルの部屋の明かりはついたままだった。
ベッドのシーツは乱れ、その上には一糸纏わぬ男性2人。正常位で繋がる彼らは重なったまま動かない。
上に乗る男の容姿は整っている。
ほどよく筋肉がついた身体に、女性のような焦げ茶色の目、形の良い唇が婀娜っぽい。甘いマスクという形容がピッタリな貌がもう1人を見下ろす。
組み敷かれる男は若かった。茶髪で中肉中背の一見平凡な容姿だ。しかしよく見れば目鼻立ちがくっきりしている。
「頑張るねえ」
甘いマスクの男ーージョンは妖艶に微笑んだ。
それはこっちの台詞だ、と組み敷かれる男ーー肇は吐き捨てる。
ジョンというのは肇がつけた渾名だ。Hated John。初めて会った時に聞いていた曲だが、昨今嫌われ者と化している警察官のジョンにはピッタリの名だと肇は思っている。本名は聞いていたが忘れてしまった。セックスをするだけの関係だから覚える必要もない。
ジョンの肉杭は肇の体内に差し込まれたままで、そのまま胸やら肇のペニスやらを弄んでいた。達そうになるギリギリまで追い詰め、いざそうなりそうになると手を緩めてくる。
みっともなく乱れて強請るのを期待しているに違いない、と肇は推測する。明かりがつけっぱなしなのも肇の反応を見るためだ。その手には乗るかと意地を張り、セックスはダラダラと続いていた。
「あんまり声出さない方だよな、お前」
ジョンはゆっくりとストロークを繰り返しながら言う。
「黙ってろ」
「啼かせるのが好きなんだけど」
「じゃあお前のテクが」
うあ、と肇から声が漏れた。ジョンは肩口に噛みいていた。歯型がくっきりと残る。
「痛いの好き?」
「好きじゃ、っ」
今度は胸だった。噛んだまま盛り上がった肉に舌を這わせてくる。痛さとくすぐったさとでびくりとのけぞった。
「・・・お前ふざけんなよマジで」
「気持ちよくなってくるかもよ」
ジョンはどこ吹く風で二の腕に歯を立てる。
肇から呻めきが這い出た。そこも噛んだまま吸われて舐められる。肇は歯を食いしばり顔を歪めた。
「我慢してる顔も結構クルな」
ジョンはくつくつと喉を鳴らして、腰を動かし始めた。律動の合間にも歯型をつけてくる。たまに口付けを落としてくる。噛まれるかも、と身構える肇の反応を見て楽しんでいるのだ。
「気持ちいい?」
ジョンは動きながら甘く囁く。
「噛まなきゃな」
「アハッホントかわいくねえ」
律動の間隔が短くなる。ベッドが軋む音が大きくなった。ジョンは肇を囲い込むようにベッドに腕をつく。
「イキそ・・・」
ジョンの声が擦れる。
肇は頷いた。ジョンは顔を上げてニヤリと笑い、肇の首筋に歯を突き立てた。
ジョンの下半身が震え、肇を捕らえる腕にも顎にも力が入る。食い千切られそうなほど強く。悲鳴に似た声が上がった。
ジョンは満足そうに深く息を吐いて肇に覆い被さる。それから指で首をなぞった。
「痛かった?」
ジョンの熱に浮かされたような声も眼差しも、甘く蕩けて色気が溢れ出ている。
「当たり前だろ」
「ごめん、結構ひどいことになってる」
「はあ?何ヘラヘラしてんだよ、笑い事じゃねえよ」
ユウジに見られたらどうすんだ、と頭を掻きむしりたくなる。肇の同居人であり義兄であるユウジは、肇がマッチングアプリを使ってセックスすることをよく思っていない。キスマークつけて帰ろうものなら長々と説教や小言をくらうことになる。
「悪い悪い、次は優しくするから」
不機嫌さを隠そうともしない肇を宥めるように、ジョンは歯型を舌で伝う。それから肇の股間に手を伸ばして、まだ芯の残るペニスを擦る。
「抜けよ」
孔にはジョンのペニスが挿れられたままだ。
「その方がエロくない?」
ジョンは鎖骨あたりの皮膚を吸う。跡をつけて、まだ疼くそこに舌を這わせてくる。
「おい、いい加減に」
「イクまでやるから」
舌舐めずりをするように唇を湿らせる様はとてつもなく淫靡であった。
ダメだコイツ、と肇は諦めに脱力した。
射精にいたるまでそれほど時間はかからなかったが、洒落にならないほど跡をつけられた。
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