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セックスも後始末も終わった後、相沢は晴れ晴れとした顔をしていた。ベッドに腰掛ける肇に気さくに話しかけ、肇はスマートフォンを見ながら適当に相槌を打つ。
「ーーーーホント最悪でしょ?俺の彼氏。
まあ浮気してる俺が言うのもなんですけど。
性格はクソなのにセックスと口ばっかり上手くて。それで中々別れられなかったんですけど、吹っ切れましたよ。
ショウイチさんのがイケメンですし!」
聞きなれない名に首を捻るが、ショウイチがジョンのアプリでのハンドルネームであると思い出した。
こちらが聞いてもいないのに、相沢は身の上をペラペラと喋って聞かせてくる。黙っているときは楚々とした印象だったが、実際にはかなり奔放な性格らしかった。
「あ、ハジメさんもアプリやってるんですよね。アカ教えてもらっていいですか」
「いいけど・・・相手するかは気分次第だから」
「へえー!じゃあモテるんですね!すごいなあ」
「おーい、部屋代精算するからこっち来て」
ジョンが肇と相沢を呼び2人は腰を上げる。先程まで濃密なセックスをしていたとは思えないほど和気藹々とした雰囲気だった。
帰りはジョンの車に乗り込んで、最寄駅まで路線が入っているターミナル駅に向かった。
「ハジメさんって彼氏いますか?」
口火を切ったのはお喋りな相沢だった。
「いない」
「ショウイチさんとは」
「ただのセフレ」
「嫌だよ、ハジメ性格に難アリだから」
肇とジョンの台詞が重なった。お前に性格がどうとか言われたくない、と肇はジョンを睨みつける。
「そうなんですか?モテるのに」
「本命がいたりする?」
ジョンが冗談まじりに聞いてきた。不意打ちだったので肇は沈黙し、それを肯定と取られてしまった。
「アハっマジで?」
「え、どんな人なんですか」
ユウジのことは自分だけが知っていればいい、と肇は沈黙を貫く。
「もしかしてノンケ?」
とジョンが聞いてきた。図星を突かれて、何も答えられなかった。
「あー、それは・・・」
「アッハッハ!マジかよお前?!」
相沢は苦笑いしながら誤魔化し、ジョンは爆笑する。
「かわいいとこあるじゃん。他のヤツとセックスしまくってるくせに片思いとか。あ、もしかして本命には手ぇ出せないタイプ?」
「その人の代わりかも知れませんねえ」
相沢が呟いた。
「俺、前にも他の人とセックスした事あるんですけど、気が済まなくて。満たされないっていうか。やっぱり彼氏じゃないとダメで」
相沢は途中で間をおきながら話す。しっくりくる言葉を探しているようだった。要は、ユウジとセックスできないから他の人間とセックスしているのでは、という考察だ。しかし、
「・・・それ、考えたこともなかった」
肇は首を捻る。相沢は申し訳なさそうに肩をすくめた。
「やっぱり人それぞれですよね、すみません、勝手な事言っちゃって」
「ノンケはダメだって」
ジョンがハンドルをゆっくり切る。黒いフィールダーは滑らかにロータリーに吸い込まれていった。
相沢はジョンと肇に礼を言って車を降り、人混みに溶け込んでいった。そして、肇はふと気づく。帰り際、ジョンは相沢にはキスをしていない。自分にはしているのに。思い返せばセックスの時もしてなかった。
肇も降りようとすれば
「ハジメ、ノンケが相手なら腹括っとけよ?」
ジョンは珍しく真剣な顔付きで言った。
「さっさと告れってか?」
似たような忠告をアリサからも受けた覚えがあった。しかし、ジョンは否定する。
「ちげぇよ、言うにしても言わねえにしてもだよ」
「ん」
意味は良くわからなかったが、とりあえず返事をしておいた。
「ま、セックスならいつでもしてやるよ」
ジョンは肇に顔を寄せて、いつものように唇を重ねてきた。なぜ相沢にはしなかったんだろうと再び疑問が浮上する。
しかし車から降りて、ウォークマンで曲を流し始めると音楽が思考を侵食していった。深く考えるのはそこでやめてしまった。
肇が、ジョンの言葉の意味を知ったのは、もう少し後の事だった。
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