Trac04 Bring Me To Live/エヴァネッセンス

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気がつけば、肇はユウジの手首を掴んで引き寄せていた。それは、言葉の綾だとか冗談だとか、もうそんなことでは取り返しがつかないことを意味していた。 凄まじい後悔が襲ってきた。すでに、ユウジの目に嫌悪や軽蔑が滲み出してきている。 「結局は、それか・・・?」 ユウジは、勢いよく手を振り払う。 「お前にとって、俺はそういう対象でしか無かったってことか?」 咄嗟に違うと言えなかった。だが、アプリを介して出会う者達のように、セックスだけできればいいということではない。それを上手く言葉に出来ない内に 「正直ショックだよ、一緒に頑張ってきたと思ってたのにな」 ユウジはギターを持って、寝室に行ってしまった。 違う、そうじゃないと叫びたいのに、やっぱり駄目だった、言っても無駄だという諦めが肇の足を引っ張る。 悔しさが込み上げ「クソッ」と悪態を吐いた。俯いた目線の先に、規則正しくならんだ白鍵と黒鍵があった。力任せに叩いて壊したくなって、拳を振り上げたが宙で止まる。空中でやり場のない感情がぶるぶると腕を震わせ、やがてだらりと垂れ下がる。ユウジが肇とセッションする為にと購入したものであるし、こういう時に肇が縋るものは、やはり音楽しかなかった。 鍵盤を見つめながら、曲は何にしようか考える。 散々迷ったが、今はこれしか思いつかなかった。 エルビス・プレスリーの"Can't Help Falling Love ".鍵盤に指を置いて、ゆったりとしたメロディを音と一緒に記憶から引き出していく。 ーーーーYou don't have(愛しているなんて)     to say love me(言わなくていい) Just be close(ただ傍にいてくれ)at hand You don't have(ずっと一緒に) to stay forever(いなくてもいい) I will understand(わかっているよ) Believe me,(ただ信じてくれ、)believe me(信じてくれよ)・・・ 久しぶりに、ユウジと演奏をしたかった。ユウジのギターの音も聞きたかった。カホや姉に話しかけるような、あの優しくて温かい音を。 ユウジは寝室から戻ってこない。 弾き終わるといくらか落ち着いた。しかし、身体の中が空っぽになったように虚しかった。 別の曲も弾いてみる。知らず知らずのうちに、ユウジの好きなQueenの楽曲たちを弾いていたことに気づき苦笑する。 電子ピアノの電源を切って、スマートフォンの画面を開いた。マッチングアプリのアイコンをタップする。 ものの見事に袖にされ、音楽でも満たされなくて、その次に肇が求めるものは、もうセックスしか残されていなかった。
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