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よりによって捕まった相手は春野しかいなかった。
しかし春野からダイレクトメールが届くと、もうどうにでもなれとそれに応えていた。
春野から指定された待ち合わせ場所は繁華街から近い駅だ。どんだけヤりたいんだよ、と肇は自分のことは棚に上げて思った。
春野と合流するとすぐホテルに向かった。ビジネスホテルに近いシンプルな内装だ。足を踏み入れた瞬間、肇の心臓の鼓動は早くなり、興奮とも嫌悪ともつかない感情が背中にぞくぞくと走る。肇は逃げるように風呂場に入った。
準備を済ませて戻ってきた時には、春野は下着姿でベッドで寝転びながら携帯電話を触っていた。
肇に気づくと、
「おいで」
とベッドから起き上がる。肇がスプリングを軋ませてベッドに膝をつくや否や、春野の腕の中に捕らえられた。
春野は肇の頭を撫でながら優しい笑みを浮かべている。ユウジが、カホや肇の姉に向けていたような。
それが今自分だけに向けられていると思うと、肇の胸の奥から何かこみ上げてきた。嬉しさなのか、罪悪感なのか分からない。顔を見られなくなって俯いた。
春野は黙って肇の顔を包み込んで、正面を向かせる。肇の目の前に微笑むユウジの顔が迫る。
そういう対象でしかなかったってことか?と言うユウジの声がリフレインして、肇の身体は硬直する。それ以上春野に近づけなくなった。
春野はふと顔を離して、眉間に少しだけしわを寄せる。
「そんなに似てる?知り合いに」
肇が口を開きかけると春野は
「それって、もしかして本命?」
と聞いてきた。肇は迷ったが、顎を引いて肯定した。
「顔、上げて」
春野の方を見れば、キスをされた。ノックするように何度か唇を食まれて、口をあければ自然と舌が入ってくる。目を閉じてしばらく貪り合った。
「俺たぶん似てないよ、悪いヤツだよ」
だってやめる気はないから、と春野はニヤリと笑う。しかし、やはり、そんな表情までユウジに似ていた。
肇に後戻りする気はもうない。火をつけられた欲望に身を任せ、春野にされるがまま押し倒された。
春野は丁寧に触れてくる。首筋や鎖骨を辿る唇も、腰や背中をさする指先も柔らかな感触だ。どこか強張っていた身体も、肌が擦れ合う度ベッドに沈んでいった。
「ここ、いじってないよね?」
春野は肇のペニスをさする。肇は素知らぬ顔で頷いた。
「確かめてみようか」
春野に下着を剥がされて、ペニスを口に入れられた。
ユウジの顔が自身を咥えている面は、肇にとってこれ以上ないほど扇情的であった。見ているだけで自身が張りつめ育っていく。
頭を前後に振って全体を擦られることも、亀頭を吸われながら先を舌先で刺激されることも気持ちが良かった。身悶えるほどの快感を享受していたが、興奮や背徳感の方が優っていた。精液を春野の口の中に放つと、春野はティッシュで口を拭いた後、
「嘘つき」
とニヤリとした。
「普通にオナニーしてたでしょ」
ニヤニヤしながら肇の亀頭の先をくすぐる。
「まあ俺もしてたけどね。君のこと考えながら」
ずっと抱きたかった、と抱きしめてくる。それから、肇の耳元で囁く。
「好きだよ」
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