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茶色く逆立った短い髪の下。シャープな輪郭の中にはソバカスが散って、切れ長の目は刃物のようにギラついている。
ホテルへ行き、肇が下着だけで風呂場から出てきた瞬間、腹に蹴りを入れられ夕食を床にぶち撒けそうになって見上げた顔がそれだった。
「何?こういうのが好きなの?」
込み上げる胃液の酸味と苦味を、唾と一緒に押し戻す。
彼ー山田は髪と同じ色の眉をひそめた。
「やるなら最初に言っとけよ」
肇が立ち上がればまた殴られた。
「逃げんな」
山田は少し上擦った声で言った。
「殴らなくても逃げねえよ。セックスするなら相手してやるっつーの」
あ、顔に跡つけるのはナシで、と肇が続ければ山田はまた肇を殴りうるせえよ、と床に叩きつける。
山田はズボンを下ろして
「しゃぶれよ」
とペニスを肇の顔に突きつけてくる。
肇の顔に不満が広がる。無理矢理手籠にされるのは覚悟の上であるし、セックスさえ出来ればいいので構わない。が、そのようなやり方は肇の好みではなかった。
「いいからしゃぶれよ!」
肇がうんざりした表情を向ければ張り手が飛んできた。顔に跡がつくのを懸念しながら、仕方なく、肇は舌を伸ばした。
何故このような事態に陥ったのかといえば、1時間ほど前のことだ。
ーーーー「え、無理矢理っぽいのが好きなの?」
「すみません、こんな事頼んで」
駅で待ち合わせをし、ホテルに向かって歩く途中、山田は髪と同じ色の眉を下げて言った。
「いやなら断ってくれていいっス」
申し訳なさそうに、スカジャンを着た身体を小さくする。
「普通にヤればいいじゃん」
「・・・そういう事しないと、ヤれなくて」
「ウリセンでやれよ」
「そこまで金無いんス。会社、クビになりそうだし」
ウリセンはゲイ専用の風俗だ。相場は本番無しでも15000円から20000円と決して安くはない。
「じゃセックスしてるヒマねえんじゃねえの」
「そういう時だから、余計にシたくて。
もう我慢できなくなっちゃって」
まあわからんでも無い。と肇は山田を見やる。
山田の肩も声も震えている。泣くのを堪えているかのように。
「俺が嫌だって言ったらどうする?」
「・・・帰ります」
「どうすっかなぁ」
ホテルにはもう着いてしまった。
山田は捨てられた子犬と言う表現がぴったりな顔をしていた。むしろ加虐心をそそられる。
というか、肇はもうどうでもいいからセックスがしたくてしょうがなかった。
「わかった。行こ」
「えっ本当に?殴ったり蹴ったりとか、大丈夫ですか?」
「あー・・・」
肇は頭をかいた。
最中に首を絞められたり歯型つけられたりした事はあるが、SMや暴力行為を交えたセックスは経験がない。それに、ユウジに無傷で帰ってこいと言われている。
「じゃあ、顔とかに跡つけるのはナシで」
まあバレなきゃいいだろ、と肇は楽観的だった。
2人はホテルに入っていき、そして今に至る。
肇は口の中に生臭い匂いと血の味を感じていた。精液を飲み込むのは正直吐きそうだった。
「水飲んでいい?」
山田はズボンを上げると肇の髪を引っ張って風呂場に連れ込む。下着をつけたままの肇の頭からシャワーを浴びせる。山田も服を着たままだが御構い無しだ。
「飲めよ」
胸をつま先で蹴られる。肇は口内の気持ち悪さに負け、顔を上げて少し口を開き中を洗い流した。
しかし山田は肇の顎を掴んで、更に口を開かせてきた。口から水が溢れかえる。苦しいよりも鼻に水が入ってきて痛い。むせると喉に水が流れ込んで、呼吸ができなくて本当に死にそうになる。
水責めが終われば拳が飛んできた。鼻からも口からも液体を垂れ流しながら、山田が拳で全身に跡をつけるのを必死に腕で塞ぐ。
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