贖罪

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「ねぇ、覚えてる?」 軽く巻いた前髪をスプレーで固めつつ、全身鏡の前で最終チェックした。先週美容院に行ったばかりで、髪のインナーに入ったピンクはまだ最高の発色を保っている。 昨日から梅雨の中休みってやつに突入していて、今日は真夏日になるとの予報が出ていた。 「なにを?」 急いでいるあたしは、質問を投げられた背後を振り向きもせずぶっきらぼうに返事をした。 うん、今日のあたしは結構かわいい。 せっかく晴れるならと買ったばかりのワンピースに袖を通して、新色のアイシャドウを使って夏っぽいメイクをした顔はいつもより盛れている気がする。 「今日はね、彼氏と付き合い始めてちょうど一年なの」 しかし、返ってきた言葉が予想外すぎて思わず振り返ってしまった。 ベッドの上、膝を抱えて丸くなっている志織は長い睫毛をぱちぱちっと瞬かせる。カラコンなしでも茶色がかった瞳が切なそうに潤んだ。 「か、……彼氏?」 「うん、彼氏。1組の鈴木くん」 予定していたより30分も寝坊してしまったあたしは、さっきからいつもの3倍ぐらいの速度で動き続けていた。 それが台無しになるぐらい、たっぷりたっぷりと間を置いてから深呼吸をひとつ。 「鈴木くんと……デートに行くべき、では?」 あたしと志織は中学時代からの友達で、卒業してからは離れ離れになった。 昨日は久し振りに予定が合って遊び倒して、志織の家に泊まった。今日はずっと気になっていた映画を観る予定……だったんだけど。 「いや、鈴木くんのこと顔すら知らないけど。そもそも志織は何組かも知らないし」 「私は2組だよー。だから体育の授業はいっしょなの」 「そっかー、よかったねぇ。……じゃなくて! 彼氏いるなんて初耳なんだけど!?」 あたしが忘れっぽいとかではなく、これは本当に初耳だ。 しかし志織は心底不思議そうに首を傾げる。
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