4人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、覚えてる?」
新築の一軒家のリビングで、男女がそれぞれ片側を持って一つのアルバムを覗き込んでいる。幼少期のページに入ったところで唐突に、天は弥太郎へ問いかけた。
「え? 何?」
「あれだよあれ。私たちさ、このくらいの時に結婚しようって言ってたじゃん」
「あー! 大きくなったらってやつな! 覚えてる覚えてる」
弥太郎は懐かしそうに笑った。天が少しほっとしたような顔をする。
「なんでそんなことになったんだっけな。ドラマか何かの影響だったか」
「私は親戚が結婚して、なんとなくいいものなんだって思ってた気がする。それで弥太郎に」
「お前から言い出したんだっけ」
「多分そう? はっきり『結婚しよう』って言ったのは確かそっちだったよ」
「まじで? まあ、ちっさい俺が何考えてたなんか分かるわけねえか。そん時はお前と結婚してもいいかって思ったんだろうな」
からりと笑う弥太郎の左手の薬指には指輪が嵌っている。照明を反射して光る、永遠を誓った愛の証。
天はそっと光から目を逸らした。
「私もこの頃は弥太郎と結婚してもいいかなーみたいな気持ちだったんだろうね」
「うわ。結婚できてねーくせによく言う」
「何か言った?」
「イエ、なんでもありません」
即座に顔を背ける弥太郎の焦りように天は笑い声を上げて、アルバムの写真に視線を落とした。
保育園児くらいの幼い天と弥太郎が二人で映っている。
天も当時はあまり深く考えていなかった。ずっと一緒にいられたらいいな、という程度の気持ちで口約束を交わした。
だが結婚の誓いを立てて以降、天の気持ちはどんどん深くなっていった。弥太郎はそうはならずに。
“じゃあ結婚しよ。大きくなったら”
弥太郎があの時確かにそう言ったのに。
『ねぇ、覚えてる?』
『覚えてる覚えてる』
――覚えてるなら、私と、結婚してよ。
最初のコメントを投稿しよう!