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十三、旅人
彼が永遠の旅に出たのは、翌年の二月のことだった。
「ほら、覚えてる? あなた達の卒業式の写真よ」
玲子と、同じクラスだった男子二人と私の四人で、中山くんの家にお線香をあげに行った。彼のお母さんは思い出の品々を取り出して来て、私たちの前に広げてくれた。
中山くんの家を出た後、私たちはファミレスに立ち寄ってお茶をすることになった。メニューを開くとバレンタインの限定メニューという文字がカラフルに踊っていた。
「バレンタインと言えば、アイツめちゃくちゃ貰ってたよな〜」
「そうそう。でも、本当に欲しい人からはもらえない、みたいなこと言ってて腹立ったよなぁ。貰えるだけありがたいだろって」
「えー、中山くんて誰が本命だったの?」
玲子がそう訊くと、男性二人は私の方を同時に見て、にやりと笑った。
「嘘ばっかり、やめてよ」
私はメニューに目を落とす。奈ノ葉と同じくらいの歳に見える女性のスタッフが注文を取りに来た。
「フォンダンショコラ、ください」
温かな甘さで口の中を満たして、心が疼くのを束の間でも忘れてしまいたかった。
彼はこれから、どんな旅をするのだろう。
冬枯れの町の片隅で、私は密かに想いを馳せていた。
《了》
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