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十、うわの空
「斉藤さん。覚えてますか? 会議室の予約頼んだこと」
昼下がりのオフィス。
上司にそう言われて私ははっと我に帰った。
「すみません! うっかりしてしまいまして…」
「たまたま他の会議とバッティングしなかったから予約なしでもあの部屋使えたけど…今度からしっかりね」
頭を下げながら申し訳ありませんと言ってゆっくり顔を上げると、隣の席の若い正社員の女性が心配そうに私を見た。
「斉藤さん、最近なにかあったんですか? なにか心配事とか…困ってることとかあったりしますか?」
「いえ、大丈夫です。ごめんなさい、夏バテかな、もう歳だから…」
「ここのところあんまり元気ないのかなって、私ちょっと気になってたんです」
彼女にお礼を言ってから、私はハンカチを手にトイレへ向かった。
ここのところこういうミスが続いてしまっていて、すっかり落ち込んでいた。個室に篭って扉を背にしてため息をつく。
こんなんじゃダメだなぁ、持ち直さないと。大人なのに。情けない。
そう思った時、上着のポケットの中でスマホが震えた。
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