4人が本棚に入れています
本棚に追加
十二、告白
彼は暗がりのベンチに一人腰掛け、空を見上げて佇んでいた。
「覚えてるよ!」
私のその声に驚いて、彼は振り返る。
「内田さん! 来てくれたのか」
「来たよ。だって、ここを忘れるわけないじゃない」
彼が腰掛けているベンチの隣に座って、私は夜空を見上げる。
満点の星空が、私たちに降りかかるようだった。
「ここはなんにも、変わらないんだねぇ。昔のまんま」
「僕もそう思ってね、驚いたよ。手元は見えないのに、こんなに明るく感じるんだから不思議だ」
中山くんの横顔。暗くてはっきりとは見えない。だけど、優しい顔をしているんだろうと思った。隣で眠っていたあの夜と同じように。
「実はね、僕は今度、旅に出ることになりそうなんだ。だから、その前にお別れを言いたくて、こんなところまで呼び出してしまったんだよ」
「旅?」
「うん、旅」
「遠くまで行くの?」
「遠いのかどうかはまだわからない。案外近くかもしれないけれど、しばらく会えなくなるのは確実だと思う」
「その旅は、キャンセルできないの?」
そう訊くと彼は面白そうに笑い声をあげた。
「ほんと、キャンセル出来たらどんなにいいかと思うんだけど、こちらの都合でどうにもならないことって、よくあるだろ?」
「うん、そうね、世の中そんなことばっかりだよね」
生ぬるい夜風の中に、少しだけ秋の気配を感じた。それでもまだ、温かみの残る土からは草の匂いがのぼってくる。
「内田さんにまた会えてよかった。僕は君のことが好きだったよ。中学の三年間、ずっと」
私は何も答えられないまま、中山くんの方を向いた。
「いまさらだけど、やっぱり直接伝えられて、すっきりしたよ。これで心置きなく旅に出られそうだ」
それは風のような声だった。
旅から戻ったら、また連絡をくれる?と訊くと、少しの沈黙の後、うん、と彼は言った。
最初のコメントを投稿しよう!