十二、告白

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十二、告白

 彼は暗がりのベンチに一人腰掛け、空を見上げて佇んでいた。 「覚えてるよ!」  私のその声に驚いて、彼は振り返る。 「内田さん! 来てくれたのか」 「来たよ。だって、ここを忘れるわけないじゃない」  彼が腰掛けているベンチの隣に座って、私は夜空を見上げる。  満点の星空が、私たちに降りかかるようだった。 「ここはなんにも、変わらないんだねぇ。昔のまんま」 「僕もそう思ってね、驚いたよ。手元は見えないのに、こんなに明るく感じるんだから不思議だ」  中山くんの横顔。暗くてはっきりとは見えない。だけど、優しい顔をしているんだろうと思った。隣で眠っていたあの夜と同じように。 「実はね、僕は今度、旅に出ることになりそうなんだ。だから、その前にお別れを言いたくて、こんなところまで呼び出してしまったんだよ」 「旅?」 「うん、旅」 「遠くまで行くの?」 「遠いのかどうかはまだわからない。案外近くかもしれないけれど、しばらく会えなくなるのは確実だと思う」 「その旅は、キャンセルできないの?」  そう訊くと彼は面白そうに笑い声をあげた。 「ほんと、キャンセル出来たらどんなにいいかと思うんだけど、こちらの都合でどうにもならないことって、よくあるだろ?」 「うん、そうね、世の中そんなことばっかりだよね」  生ぬるい夜風の中に、少しだけ秋の気配を感じた。それでもまだ、温かみの残る土からは草の匂いがのぼってくる。 「内田さんにまた会えてよかった。僕は君のことが好きだったよ。中学の三年間、ずっと」  私は何も答えられないまま、中山くんの方を向いた。 「いまさらだけど、やっぱり直接伝えられて、すっきりしたよ。これで心置きなく旅に出られそうだ」  それは風のような声だった。  旅から戻ったら、また連絡をくれる?と訊くと、少しの沈黙の後、うん、と彼は言った。
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