四、私の夫

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四、私の夫

 私はあの頃、専業主婦だった。 「ねぇ、覚えてる? 今月の二十一日のこと」  大介は朝食を摂りながら、なんだっけという顔をした。 「あなたのお父さんの誕生日でしょ? 贈り物何にするか考えてくれた?」 「そうか、ごめん、何も考えてないや」 「もー! 毎年私一人で考えてるんだよ」 「ごめんって。今日考えるから。忘れちゃうんだよ、つい」  行ってきますと玄関を出る時、もうすでに忘れていそうなケロッとした顔を見せたから、私は腹立たしくて仕方がなかった。贈り物を忘れたら、義両親に薄情な嫁と思われる。あの頃の私は勝手にそう思っていたのだ。  夫が出た一時間後に奈ノ葉を送り出す。ランドセルにつけていたキーホルダーの鈴がゆらゆら揺れていた。跳ねるような娘の後ろ姿を見ているうち、せっかくいい天気だからカーテンの洗濯でもしようかという気になった。夫が帰ってきたら提案しようと思って、義父への贈り物の候補をいくつか考えながら家事を続けた。どうせまた忘れてたって言うだろうからと。  午後七時過ぎに、「飲んで帰ることになった!ゴメン!」というメールがあった。  しかし、夫は帰ってこなかったのだ。
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