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五、別れの訳
夫の命日に集まって食事をした時、義母が首元のスカーフを示した。
「ねぇ、覚えてる? これ、あなたたちが結婚した年にくれたのよ」
それは私と大介が十八年前にあげた誕生日プレゼントだった。贈った当時よりも、今の方が似合っている。当時はもしかしたら、年寄り扱いされたと思わせたかもしれない。
だけど、これまでずっと持っていてくれて、身につけてくれている。嬉しいというより、ありがたいと思う。
夫の死が、私と義両親の心を近づけたような気もする。
あの日、終電が隣の駅止まりとなって、夫は暗い夜道をひとりきり歩いていたようだ。途中、コンビニに立ち寄って、ペットボトルの飲み物と、私が好きだったチョコレートを買ってくれていた。
そして再び歩き始めた後、突然倒れたらしい。午前四時頃の通報があったときにはすでに亡くなっていた。
検死の結果、心臓発作を起こしていたことがわかった。その日の朝まで、夫にその前兆のようなものはなにもなかったように思う。それでも、何かを見落としていたんじゃないかという後悔は今も時々頭をもたげる。
あれからもう六年が経つ。
義両親はずっと、私と奈ノ葉を大切にしてくれている。奈ノ葉の誕生日も、私の誕生日も、そして夫の命日も、毎年共に過ごす。私の両親が定年後遠方に移住したこともあり、近くに暮らす義両親はいつでも頼ってくれと言ってくれる。
夫だけが歳を取らなくなってから、義両親も私も実年齢より歳を取ったと感じる。夫の分まで、歳を取らなくてはいけないという、勝手な義務感をめいめい背負っているのかもしれない。
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