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六、再会
夏が来た。
「覚えてるよね? 私たちの目標は、全国優勝なんだからね」
バトン部の部長はそう言って、部員たちの士気を高めたらしい。八月、奈ノ葉は一週間の強化合宿に出かけた。ちょうど同じタイミングで、私の派遣先の会社も夏休みとなった。もう何年ぶりかわからないが、本当に一人きりの時間がふいに訪れたのだ。
私は久しぶりに、実家の近くまで行ってみようかという気を起こした。かつて両親と姉と私が暮らした家は売却したので元の面影はない。だが、町の様子などを確かめてみたかった。変わったこともあるだろうけど、変わらないものも何かあるかもしれないと思って。
私の地元は隣の市だ。電車に乗ればすぐに着く。私は白い帽子を被って出かけた。
八月の光はまぶしかった。
こんなところにこんなおしゃれなパン屋さんが出来たんだ。
ここにあった駄菓子屋さん、やっぱりなくなっちゃったんだな。
そんなことを思いながら歩いていると、突然頭の上から声が降ってきた。
「内田さん」
それは私の旧姓。
驚いて見上げると、二階の窓から顔を出している中山くんがいた。そこは彼の家の前だったのだ。
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