君影草

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「なんだ、その格好は」  5日ぶりに顔を合わせた夫は、不機嫌に輪をかけた仏頂面で、出迎えた私を批判した。 「きちんとしたいのよ。最後なんだもの」  めっきり白髪が増えた中途半端な長さのセミロングは、昨日行きつけの美容院で、エレガントなショート丈にカットした。更に、サイドを流せるように、緩くパーマをかけてもらった。 「……フン。嫌味か」  服は、小花柄の薄紫色のワンピースを選んだ。スカートが膝までのAライン。襟と袖口に、小さなウェーブのレース飾りが付いている。30年前の「お気に入り」を、今でも着られる体型には感謝もの。この服が似合っていた頃に買ってもらったパールのネックレスと、シルバーのブローチも身に付けている。完璧だ。 「ダイニングに着いてくださる?」  先にリビングに入った彼は、真っ直ぐソファーに座ろうとしたので、指示を出す。あからさまに不満レベルがアップしたけれど、主導権はこちらにある。彼は渋々といった態度のまま、自分の定位置――リビングのテレビが正面にくる席に座った。 「今、お茶を淹れるわ」 「そんなもの、どうでもいい」 「あら、ダメよ。今日は、私の好きにさせてくれるっていう約束でしょ?」  チッ、と小さな舌打ちが返る。承諾の意と解釈して、私はキッチンで微笑んだ。
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