一 見覚えのない女

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一 見覚えのない女

「――ねえ? あたしのこと覚えてる?」 「…う、ううん……」  見知らぬベッドの上で目を覚ますと、俺を見下ろす一人の女性が囁くようにそう尋ねた。  ぼやけていた視界が鮮明になってくると、非常灯しか点いていない薄闇の中でも彼女の容姿が見てとれるようになる……。  白いナース服を着ているのでどうやら看護師のようであるが、どこか妖艶な色気を感じる妙齢の美しい女性だ。  ということは、ここは病院か? 「ねえ? あたしのこと覚えてる?」  その美人看護師が、寝ている俺の顔を真上からじっと覗き込み、重ねて同じ質問を投げかけてくる。 「君は……うくっ…!」  記憶を手繰りながら起き上がろうとすると、頭に激痛が走る……手をやってみれば、まるでミイラ男のように包帯でぐるぐる巻きにされていた。  俺は、怪我をしているのか? ……でも、なんで……? 「あなた、ビルから落ちて頭を打ったのよ。思い出した?」  俺の疑問に答えるかの如く、美人看護婦がそう教えてくれる。  ……だが、思い出せない。どうしてビルなんかから落ちたのだろう?  それに、彼女は自分のことを「覚えてる?」と尋ねたが、彼女はただの看護師ではなく、俺の知り合いか何かなのだろうか? ……まったく記憶にない。  ……いや、覚えてないのは怪我や彼女に関してばかりじゃない。もっと根本的なところから記憶を失っている。 「俺は……誰なんだ?」  ズキズキと痛む頭を押さえながら、俺は愕然とベッドの上でそう呟いた。
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