満員電車にご注意ください

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満員電車にご注意ください

 都会ってのは車よりも電車の方が便利だったりする。免許もいらない、維持費もかからない。更に日本の鉄道はほぼ時刻通りだ。  だが、それが一度遅れたとなれば大変な混乱が起こる。当然、時間帯によっては満員状態だ。  くっ……狭いってのに押してくるなよ。  ギュウギュウに押し込められている状態で揺れれば当然どこかに誰かの体が当る。高身長ならその被害も多少緩和されるのだろうが、生憎こちらは高校1年生に間違われるくらい身長が低い。これでも30歳の立派な成人だ。  営業先に行った帰り、トラブルで遅延したのと帰宅ラッシュでこの電車はギュウギュウだ。どうにもならないが、やっぱりしんどい。 「せ……先輩……」  不意に頭上から声がして見上げると、一緒に営業を回っていた新人の相馬が赤い顔をして今にも泣きそうになっている。 「どうした」 「あの……先輩の手が……」 「俺の手がどうし……!!」  自分の手はコートのポケットに入れている。万が一痴漢とか言われると困るからだ。そのポケットに入ったままの俺の拳に、相馬の股間が触れている。  しかもこの鮨詰め状態の電車だ、俺の拳は意図せず相馬のナニをグリグリ刺激し、相馬は生理的なもので股間が苦しそうな状態になっている。 「あっ、悪い! あっ、でもこれ」  手が抜けない。みっちりしていて動けもしない。  その間にも電車は細かく揺れて相馬の股間をスリスリする。その度に相馬は泣きそうなに顔を赤くし、もの凄く耐える顔をしている。  でもその顔が妙にエロいのは、なんでだ? いや、エロい事を俺がしてしまっているからか! 「次! 次降りよう! それまで我慢してくれ」 「あの、頑張りますけど俺……もっ、いっぱいで……」  やばい、そんな涙声で言われると俺も何故か反応するし熱くなる。そもそも俺はこの相馬という人物が割とお気に入りだ。素直で、ちょっと気弱な所もあるけれど努力家で。  それに顔立ちも悪くない。俺よりも頭一つは高身長だが、可愛い顔をしている。下がり気味の眉も、男にしては大きな目も、ほっそりとした輪郭や肌の白さも。  やばい、落ち着け!  次の駅まではあと5分程度。難所は、駅寸前の切り替え。あそこが一番揺れが大きい。 「先輩……俺……俺、先輩になら」 「え?」 「先輩だから、こんな……」 「!」  それは、どういうことでしょうか?  妙に色っぽい顔で何かを訴えかけてくる相馬を見上げた俺。その直後、電車は激しく揺れた。 「っ!!」 「い!」  俺の握っている拳が相馬の股間をグリッと押し込み上下に動く。途端、相馬は声にならない声を上げてビクンと震え、その後は顔を真っ赤にしてトロトロの顔になった。  恐る恐る相馬の股間を見た俺は、心の中で「oh my God!」と叫んだ。  布越しでもそれが大きく張りだしたまま、ビクンビクンと震えているのが分かる。じわりとその頂きが濡れていた。 『次は~○○駅~○○駅でございま~す。お降りの方は右側のドア』  ラッキーだ、俺たちの居るのは右側のドアの側。これなら素早く連れ出せる。 「もう少し待てな!」  励ました俺はドアが開いて人がなだれ込むのに乗っかり、相馬の腕を掴んでホームに降りた。幸いこんな状態だ、誰も俺たちの事なんて見ていない。  俺はそのままホームのトイレに相馬を連れ込み、一番大きな個室に入った。  ……もの凄く、気まずい。相馬はエグエグと泣いているし、股間は多分ドロドロだろう。 「あ……えっと……悪い、相馬。痴漢とかじゃなくて、俺も動けなくて」  いや、痴漢だと訴えられたら言い逃れができない。実際こいつ、イッてしまっている。  それでも相馬は頼りなくこちらを見上げた。 「あの、分かってます。先輩がそういう人じゃないのは」 「あぁ、すまない。とりあえずそのままじゃ動けないから、コンビニ行って下着だけでも買ってくる! お前はズボン脱いでハンカチかなんかでとりあえずシミだけでも拭いておいてくれ。これ、俺のハンカチ使っていいから!」  ポケットからハンカチを取り出してそれを相馬に渡し、俺は人のまばらになったホームを登っていく。改札を出て近くのコンビニに。出来ればズボンも欲しくて見回せば、駅直結の商業施設がある。駆け込んで、サイズが分からないからスエットを買って戻ってくると、相馬は言われた通りの事をしていた。 「これ、下着ととりあえずのズボン」 「え、スーツの上にスエットですか?」 「あっ、そっか! えっと…………あっ、これ!」  俺は着ていたコートを相馬に渡す。サイズは合わないかもしれないが、俺のはカジュアル目なコートだからワイシャツとジャケットよりは合うはずだ。  相馬は受け取って、ちょっとだけ嬉しそうな顔をする。それが、なんだか可愛く見えて俺は焦った。  童貞拗らせると男でも可愛く見えたりするのか? 世の中おっかないな。 「有り難うございます、先輩。あの、コートとハンカチは洗って返します」 「気にするなよ。俺こそ悪かったな」 「いえ、アレは事故みたいなものですから」  少なくとも痴漢男として駅員に突き出される事はなさそうだ。俺は安心して、ほっと息をついた。
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