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「ねぇ、覚えてる?」と彼女は恥ずかしそうに笑い、僕は「覚えているよ、もちろん」と答える。
「えへへへ、約束だからね、婚約したときの。わたしたちはずっと一緒。どんなことがあっても、たとえ世界が滅びようとも、宇宙人が攻めてこようとも――」
「お互いを裏切らない」僕は苦笑する。「覚えているよ」
観覧車のゴンドラの中で僕たちが静かに唇を重ねる音がする。
「わたしたちってユニークだよね」
「どうして?」
「だってさ、ボーイフレンドに絶対振らないって断言しているのわたしぐらいだよ」
くすくすと僕たちは顔を見合わせて笑う。
「君は極端だから」
すると彼女はわざとらしく頬を膨らませた。
「酷い。あなただって同じこと約束したくせに」
「いや、あれはさ、当たり前っていうか……だから、あの……僕が君を振るわけないじゃないか。君以外考えられないし、僕に生きている理由を与えてくれるって感じで」
「ふふふ、大好き……じゃなくて、愛してる」
「僕も」
僕たちは幸福感に満ちた息を鼻から吐き出す。
*
私は再生されるビデオを止めた。観覧車の中で一年前にスマホの内側のカメラで撮ったビデオだ。今はもう画像の方は見れない。見たくない。音声だけ聞く。胸が痛むだけだとわかっていても。病的に私はなにかにしがみつき、なにかを見出そうとしている。無意味だ。答えなんてない。
――裏切ったのは私だったのだろうか? それとも彼女。
それだけが今の私を縛り、苦しませる。そして私は再びあるはずのない答えを探しに幸せだった秋を思い出す。
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