父の記憶

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―――  いつもの母と私だけの食卓に大翔(ひろと)が加わると、とても賑やかに感じる。特にビールを呑んでご機嫌になった大翔(ひろと)はいつも楽しそうに話すから、その賑やかさが一層際立っていた。  夕食後、大翔(ひろと)は私の部屋を訪れた。 「(みお)の部屋は久しぶりだな……」  彼は部屋を見渡すと、両腕を伸ばし大きな欠伸をした。 「大翔(ひろと)、今日はちょっと呑み過ぎね」  彼は部屋の奥まで歩くと本棚を眺めている。彼の指が二段目のある背表紙の所で止まった。それは私の古いアルバムだ。 「これ見ても良い?」  彼はそう言いながら、もうアルバムを本棚から取り出している。 「ダメって言ったって見るんでしょ? でも私の小さい頃の写真は少ないわよ。父の顔が写っていたのは全て捨てたし」  大翔(ひろと)がアルバムを開いている。 「赤ちゃんの(みお)だ。へえー、可愛いじゃん。お母さんも凄く若くて綺麗」  彼が次のページを(めく)る。 「あっー、裸だ。これは他の奴に見せたくないな」  それは私が三歳くらいの時にお風呂に入っている写真だった。 「ちょっと見ないでよ!」  慌てて写真を手で隠そうとした。 「この後ろに居るのが、お父さん?」  その写真のお風呂に入っている女の子(わたし)は、男性の両手に抱かれていた。その人の顔はフレームの外に切れていたので、肩より下しか写っていなかったけど、ガッシリとした逞しい身体だ。
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