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【白虎帝編】私だけを見てほしい②
「ただいま、鳴麗」
「う~~~っ、おかえりなひゃい、白虎……様」
白虎帝の言葉に、安堵した鳴麗は次に投げつけようとした花瓶を抱きかかえたまた彼を見つめた。
無事に魔物討伐から帰ってきてくれた事に安堵し、それから元カノの朱雀帝と共に狩りに出たという事実にズキズキと胸が痛む。
早朝に西の國に帰ってくると思ったのに急いで帰還し、鳴麗の部屋まで来てくれたという喜びが混ざって、心はパンクしポロポロと泣き初めてしまった。
白虎は目を丸くし、とりあえず落ち着かせようと両手を広げるとゆっくりと彼女に近付く。
「とりあえず花瓶を置け……な? それはけっこう高額な物だし、何よりお前が怪我をする」
「うぁーーん! ご無事で何よりですが、私、実家に帰らせていただきます!!」
白虎が花瓶を受け取ると、鳴麗が脇をすり抜けようとした。つかさずそこを白虎が首根っこを掴むと引き寄せる。
訳がわからず眉間にシワを寄せながら、白虎は鳴麗を覗き込む。
「おい、何故そうなる? 実家に帰りたいだと? 義兄が恋しくなったのか」
「ちがいます!! だって、白虎様……私になんにも説明しないで、元カノと一緒に魔物討伐に行ったんですもん!!」
「―――――」
きょとんとした様子で、白虎帝は鳴麗を見つめた。朱雀は別として、こんなに露骨にヤキモチをぶつけられたのは初めてだ。
後宮の雌ならもう少し可愛げのある言葉で寂しい、他の雌の元に行かないでと言うかも知れないが、まさか皇帝を前にして実家に帰ると言うとは思わなかった。
「ぶっ……クックッ」
「何ですかっ、ぜんっぜん笑うとこじゃないですよっ、朱雀帝様と恋仲だったなんて、知らなかったしっっ……うーーー!」
「――――浮気はしてないぞ。と言うか、お前……ヤキモチを妬いてるな。つまり、俺の事が好きって事か」
「……は、はい。あの、好きみたいです……みたいじゃなくて、好きです。初恋です」
白虎帝に見初められ、流されるように西の國まできて、初めての交尾を終えたが白虎帝に対しの気持ちが曖昧のまま、きちんと向き合えて無かった。
それまで四聖獣として、もちろん憧れの気持ちはあったけれど他の雌や、元カノといると思うとなんだかすごくムカムカする。
これが恋なのか、とぼんやりとしていたものが嫉妬する事で完全に確信した。
水狼や、義兄のように長い時間を共に過ごした訳ではない。
だが、四聖獣とか彼が特別な獣だとかそんなことは関係なく惹かれているのだ。
しかし、まさかこの流れで自分の気持ちを告白するとは思わなかった鳴麗は、恥ずかしくなってしまった。
抱きすくめられ頭を撫でられると、鳴麗の尻尾がパタパタと揺れる。
「朱雀の事を言わなかったのはすまん。もう終わった話で、今はただの四聖獣の一人にしか過ぎない。朱雀は俺に未練があるようだが、俺はもうあいつになんの興味も無いから安心しろ」
「ほ、本当に……??」
「ああ。と言うか鳴麗。後宮に愛人がいるがそれはなんともないのかよ」
「――――なんともなくないですっ、だって意地悪だし。ほ、他の雌と……こ、交尾して欲しくないですっっ! 悲しいしイライラするしっ、ムカムカします! 大事にしてくれないと白虎様を嫌いになります!」
言いたいことを全部ぶつけて、ハッとする鳴麗に白虎は楽しそうに笑った。涙を指先で拭うと額に口付ける。
まだむくれている鳴麗に口付けるとトリガーとなって『月の印』の発情が始まった。
「んっ…………口付けたら……白虎様?」
「お前が自分だけを見て欲しいと言うのなら、きちんとけじめをつけよう。俺だってお前に嫌われ、城から出ていかれるのは嫌だ」
「けじ……め? けっ、結婚するんですか?」
褐色の肌を上気させ、金色の瞳を潤ませながら自分を見上げる鳴麗の言葉に、苦笑することも無く白虎帝は鳴麗を抱き上げた。
天帝に仕える四聖獣として、結婚すると言う事は伴侶にとっても世間の目は厳しく、責任が大きく伸し掛かる。だからこそ玄武は表沙汰にせず伴侶を娶った。
一度は、生涯の伴侶にと真剣に考えた雌がいたが、まさか再び鳴麗にそんな感情を抱くとは思わなかった。
それだけ、鳴麗の真っ直ぐな性格は好ましく、白虎の予想を上回る行動は見ていて飽きることがなく楽しい。
そして自分が選ばれた聖獣などお構いなしに好意をぶつけ、特別扱いせず一人の雄として接っしてくる彼女に惹かれていた。
何より西の國の歴史や風習を学び真摯に向き合おうとしている。
「――――そうだな。真剣に考えてやってもいいぞ。お前だけで事足りるし、鳴麗が伴侶になれば毎日が楽しいだろう。ま、お前に出逢ってからとうの昔に他の雌への興味は薄れていたが」
腕の中であわあや耳を動かしている鳴麗を寝具に再び寝かしつけると覆いかぶさった。体は『月の印』のおかげで熱くて雄を欲しているが、心の準備が出来ず心臓がバクバクと音をたてる。
白虎の均整の取れた胸板や、気品のある香りにドキドキして、さきほどまで腹立たしく思っていたのが嘘のようだ。間違いなく天帝に選ばれただけあって、文武両道の美丈夫。
「んっ…………白虎様」
手慣れた様子で唇を重ねると、啄むように柔らかく口付ける。
こんな風に好きな雄と口付けるだけで気持ちいいのはどうしてなのだろうと、ぼんやりと考えていた。
鳴麗には分からなかったが、唇を離した瞬間の白虎が吐き出す微かな吐息を聞くだけで、心臓が掴まれたような気がした。
「ひぁー、無理……無理です」
「何が無理だ? まだ発情していないのか」
「ち、違います……あの、格好良すぎて心臓が。嬉しいのとで、色々と心臓が持ちません……ちよ、ちょっとちょっと待って下さい!」
白虎は、目を回す鳴麗の様子に悪戯っぽく微笑むと今日は刺激的に愛でてやろうと考えた。帯をするすると解きながら、感情表現豊かな耳の付け根を甘噛みする。
「――――待たない」
低い声で囁かれた瞬間、鳴麗は真っ赤になった。
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