失くした時間を共に

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「やあ、覚えているかい? お父さんだよ」 「うん。お父さん、タンポポだよ」 子供特有の澄んで甲高い声が画面越しに伝えて来る。 得意満面に、屈託のない笑みで小さな黄色い花束を掲げて。 ここでは今は不要とされて見られない花々の多彩な色を、娘は何時も画面越しに見せて笑ってくれる。辛抱強く、直ぐには折り返せれない言葉を待って。 花が好きなのは母親に似たのだろうか。彼女を産んでくれた女性へ、花束の一つもプレゼントした事のない僕には判断が付かないが。 「今は幾つになる」 優しく問い掛けるのは、浦島効果に因る時間のズレを確かめる一種残酷な行為でもある。短い逢瀬(おうせ)の度に娘は大きく健やかに育っている。 片親の状態で日々を過ごしながら、この先も彼女が健やかにあれと祈らずにはいられない辺り、僕にも親としての自覚が芽生えて来たのだろうか。 「四歳よ」 「次に会う時は五歳を越えているかな」 「そうね」
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