記憶の彼方

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 現在では、脳の病気を検査するための脳スキャナーが革新的な進歩をとげ、分子配列や細部構造まで、無侵襲で読み取れることができる。  誠一郎がボストンから日本に帰ってきたときは、まだこの技術はほとんど知られておらず、倫理的な問題があるため、研究も進められていなかった。しかし、すでに日本でも、二人の人間の心が入れ替わったとしか思えない事件が、少なからず起こっていた。  アメリカで聞いた噂話だと、アジアの独裁国家と巨大な人口を持つ大国が、人間に対する実験を成功させているとのことで、アメリカ国防省も、密かに研究開発を進めているとのこと。確かに、精神をコントロールされた兵士は、いつの時代でも切望されている。  しかし、誠一郎が関心を持っているのは、精神の不死だった。身体が衰えたら、新しい身体に乗り換えることが出来る。精神が入れ替わるだけなので、現行法では何の罪にも問われない。少なくとも、殺人ではない。  誠一郎は、若干の後ろめたさはあったが、科学者としての興味と、いずれ、自らの不死、永遠の生命の誘惑には勝てなかった。
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