記憶の彼方

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 ただ問題となるのは、その新鮮な身体の入手をどうするかである。もちろん、双方の合意があればいいが、誰も、自分より衰えた身体を望まない。彼は、現行法を犯しても、実行せずにはおれなかった。  しかしながら、心配することはなかった。身体を交換された人は、多分、訳の分からない状態でいるばかりで、誰も訴えることはできない。  誠一郎の妄想は果てしないものになった。 「誰の肉体にも、入り込むことが可能ってことは・・・」。いささか下卑た妄想も広げた。 「俺はまだ、全裸の若い女体を見たことがない。でも、これからは、やりたい放題だ」 「資産家の身体に入り込めば、生体認証なんか意味を持たないので、お金を自由に引き出せる」 「格闘家の身体の中に入れば、憎い奴を叩き伸ばすことができる」・・・。  そして1年が過ぎた。  誠一郎は、資金集めの為に、名だたる資産家の中に入り込み、小さな国の国家予算並みの資金を貯めた。  良心の呵責があったので、評判の悪い資産家を主なターゲットとしたが、世界の経済的混乱は、全くゼロというわけにはいかなかった。
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