記憶の彼方

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 狙われた資産家は、まとまった資産をどこかに移管した後、記憶喪失患者になったり、自殺したり、精神錯乱状態で隔離入院を余儀なくされたりした。当局は異常な事態であるとの認識と、危機感を持ち始めた。  また、名の知れたボクサーやレスラー、力士、総合格闘家が、不祥事を起こして引退するケースが続出した。いずれも、事件後は記憶喪失患者か精神異常者になっている。 ・・・・・・・・・・・・  杉崎賢太は事件ファイルを見ながら、ある事件を思い出していた。数年前、若い男女が銀行強盗を企てたのだが、あっけなく逮捕された。その取り調べをしたのが賢太だった。  その男女の強盗犯は、『俺たちに明日はない』という映画を見て、実行したと供述したが、実際にはほとんど見ておらず、イメージを楽しんでいただけだった。  賢太が気になったのは、その強盗犯の女のほうが、実は男で、男のほうが、実は女ではないかと思ったからである。態度や言葉使いはさることながら、筆跡や、異性? この場合は同性? を見る眼差しが不自然だった。
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