記憶の彼方

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 誠一郎は、だんだん自分が何者なのか分からなくなりつつあった。この1年の間で、どれだけ他人の身体の中に入ったことか。しかし、興味本位や資金集めのために利用した身体は、結局とところ、すぐ飽きてしまったり、不満を抱かずにはおれない物ばかりだった。  いつでも次の身体が手に入るということは、今現在の身体を大事にしようとか、苦しみながら鍛えて成長しようとか、これっぽっちも思わなくなった。お金が沢山あって、洋服を買いまくる成金になっていった。  自分では自己統一性を維持していることは確信しているのだが、他人から見ればどうなのだろうか。鏡を見ると、本当に自分なのか分からなくなる。 「他人は俺の外見からしか判断できない。しかし、俺は、外見を自由に完璧に変えることができる。そのとき、俺は、生まれ変わったというべきなのだろうか。過去の俺はもはや存在しない」鏡の中の自分に語りかけた。 「お前は、もはや誰でもない。誰でもあるものは、誰でもなくなる。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 「杉崎さん、ちょっといいですか」 「いいよ」 「和製ボニーとクライド事件の男性の方に会ってきました」 「どうだった?」
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