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ブリンスミード・ストリート
二十世紀初頭の作家、スティーヴ・ウェインは、彼が生まれ育ったオーストラリア北部を拠点にいくつもの地を廻りながら、訪れた地を舞台に多くのロード・ストーリーを執筆した旅行作家である。
彼は多くのロード・ストーリーを執筆した割には生涯オーストラリアから出ることはなかったが、彼の愛した大陸は、生涯をかけるに値する壮大さを誇った。広がる大地と海の深い蒼。それらは見る者全てを圧倒する。
彼は自身の著書に、自分が生まれ育った街、ケアンズをよく登場させた。世界最大のサンゴ礁、グレートバリアリーフと最古の熱帯雨林、キュランダに囲まれた美しい街だ。青く広がる海を横目に何を見て、何を思い過ごしたのだろう。彼は今でもその地に眠っている。
彼は決してその名を知られた作家ではなかった。一時期はその著作が翻訳されて日本で売られることもあったが、晩年は初版で終わることも多く、そのままあまり知られることなく生涯を閉じた。
しかし、彼の悩みは伸び悩む売上よりも、四十代前半から始まった強烈な偏頭痛と幻覚だったのではないだろうか。彼の日記には、スキー板を担いだターザンに四六時中追い回される苦しみが、淡々と描かれていたという。その精神的苦痛を周囲に訴えたが、結局誰も理解を示してくれず、六十八歳の夏、肝不全によって帰らぬ人となった。
全ての人が去ったあとでも、彼に寄りそい続けた妻のニコルは、その死に顔を、とても落ち着いたいい顔だったと語ったという。きっと、彼はターザンから逃げ切ることができたのだろう。
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