Ⅵ 従騎士

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「あの日から十日も経ってるんです。考える時間は十分にありました。それに……私たちは、何もあのときの勢いだけで決めた訳ではありませんよ。『セルシア』を護る組織の一員として、私たちは三人目の主君を戴いている訳ですが……『サクラ様』だからと思えばこそ、ここに参上した次第です。年齢に応じた分別もあるつもりです。ご事情を抱えておいでのことはわかりましたが、団長がおっしゃるとおり、自分たちで決めさせてはいただけませんか」  眉尻を下げたまま、黒い瞳がツイードを見つめるのに、少しだけ微笑む。 「今ここで、その二つ目の説明をしていただくことは出来ないので?」  ガゼルの問いに、サクラが言った。 「言葉だけで理解してもらうのは難しいので、最奥に戻ってからなら。わたしと一緒に向こうから持って来た本の中に、それを視覚的に説明できるものがあります」  困惑するガゼルに、「俺もそれしか言われていない」とクレイセスが言う。  そんな中、ガゼルがサンドラに視線を遣ったのを受けて、サンドラはあっけらかんとした様子で言い放つ。 「わたしはサクラ様の事情がどうであろうと、離されても勝手に付いて行くだけだ」 「ああ、お前らしい答えで安心するわ」  軽く笑い、クロシェに「お前も驚かないってことは知ってたのか」と問えば、「父から聞かされた」と溜息交じりに答える。これにはサクラが「え、なんで?」と妙な表情になるのに、クロシェは力ない笑みを浮かべて言った。 「セルシアが世界と約束したことって、フィルセインを片付けることだけじゃないらしい、と。どこにどんな耳を放っているのかは俺も知りませんが、実際にサクラ様のお側にいる自分よりも、父の耳が早いことには驚きました」  相変わらず食えない人だ、とクレイセスが呟くのに、ホントにね、とガゼルも頷く。
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