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「む……。先輩、鋭い」
「ひどい。僕ほど、真面目で紳士的な人間は他にあんまりいないよ?」
「それにしても、勉強得意だったんですね」
「ねえ、つっこんでもくれないの? んー……勉強が得意といえば聞こえは良いけど、実際は、部活に入っていないから、他人よりも勉強する時間があっただけかな。中学に入学したばかりの頃は、吹奏楽部に入っていたけど、それも一年生の途中で辞めちゃったしね」
初耳だ。
先輩って、吹奏楽部に入っていたんだ。
「なんの楽器をやっていたんですか?」
「トランペットだよ。あの透き通った華やかな音が好きだったんだ」
王子先輩が、トランペットを優雅に奏でている姿。
うん。想像してみたら、ものすごくしっくりきた。
先輩も楽器も、きらきらと輝いているみたいで、さぞかし絵になりそうだ。
「まぁ、長い間、触れていないし。今では、音が出るかも怪しいものだけど」
彼は、なんでもないことのように、そう口にしたけれど。
ふと、生物室に大勢の女子たちが押しかけてきて、メガネくんがぶちキレたあの秋の日のことが脳裏に蘇った。
『僕、昔から、いつもあーゆー感じなんだよね。だから、あえて高校では部活に入らなかったし……。まぁ、僕自身にも非はあるのかもしれないけど』
もしかすると、先輩自身は、吹奏楽部を続けたかったのだけどやめざるをえなかったのかも。今だって、生物室に来るのですら、こそこそと隠れるように訪れている。
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