第六章 ドキドキのクリスマスイブ

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 うなずくと、先輩は耳に口元を近づけて教えてくれた。 「教師」 「へえ。子供が好きなんですか?」 「いや? 恥ずかしいんだけど、そんな殊勝な理由じゃなくて、実は、かなりかっこわるい理由」  かっこわるい理由?  首を傾げると、彼は、照れたように頬を赤くしてうつむいた。 「同性の友達とバカ話をして、お腹がよじれるほど笑ったり、かわいい女の子の話で盛り上がったり。そーゆー青春ってやつに憧れてる。でも、現実はどうもうまくいかなくて、いつも浮いちゃうんだ。面と向かって、女子にヘラヘラしてるのがムカつくって言われたこともあるしさ」  弱ったように笑っている先輩は、さびしそうで。  言葉を濁しているけれど、実際はもっとキツいことを言われたんじゃないかと思った。 「先輩も、大変ですね。でも、それでなぜ教師を?」 「やりなおしたい、って思ったから」 「は?」 「生徒たちに自分の姿を重ねて、青春をやり直したいって思ったんだ」 「現役高校生なのに、もうやり直したいって思ってるんですか?」 「たしかに。あー、でも、羽鳥さんと過ごせる今をやり直したいとは思わないかな」 「はいはい」 「今のをスルーするのはひどくない?」  こんな風に、まじめなんだか、ふざけているんだか、よくわからない会話をして。その後はまた、今まで目にしたことのない生き物たちとの出逢いにはしゃぎつづけていた。
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