第七章 わかってしまった

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「ちょっと買い物に行ってこようかと」 「嫌だよ……。だって、やっと、やっと会えたのに……」  とろんとした瞳で、すがるように見つめられて。 「僕を、置いて行かないで」  潤んだ瞳で、請われてしまえば、もうダメ。  あっという間に心臓が早鐘をうちはじめる。 「……こ、子供みたいなこと、言わないでくださいよ」 「子供で、いーよ。羽鳥さんが、一緒にいてくれるなら」  離さない、というように掴んでいる手に弱々しく力をこめられる。  先輩は、やっぱり、ずるい人だ。  好きでも特別でもない、ただの後輩に対して、こんな言葉をいってしまえるなんて。  喉の奥が、熱い。  嫌だな。  大した意味はないとわかっていながら、先輩の、一挙一動に振り回されてしまう。  自分の心なのに、こんなにも、ままならない。
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