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夢でも、彼女に手を握っていてもらえることに安堵して、まどろんでいたら。
耳元から聞こえてきた、か細い声。
「先輩。好きです。あなたのせいで、恋が、わかってしまいました。こんなに苦しいものなら、一生、わからないままでよかったです」
風にさらわれてしまいそうなほど頼りないその声は、沈みかけた意識の中で、それでも鮮烈に僕の耳へ飛びこんできた。
…………。
エッ!?
心臓が、胸を突き破りそうなほどの勢いで、バクバクと動きはじめる。
いやいや、ちょっと待って?
タンマ、ストップストップストップ!
好きな子に、こんな、願望を鍋にブチこんで溶かして固めなおしたような台詞を吐かせるなんて。いくら夢にしても、あまりにも都合が良すぎじゃないか?
逃げるように部屋から遠ざかっていく足音までリアルで。どくどくと加速していく心音に急かされるようにして飛び起きたけれど、そこには誰もいなかった。
いつもの、見慣れきった僕の部屋だ。
「……やっぱり、夢だよなぁ」
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