第一章 恋とは一生縁がないのだろう

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 息を切らしながら、模擬店で賑わっているグラウンドを駆け抜ける。秋の寒さをふくみはじめた空気が、肺にすべりこんできた。  こんな人混みの中にかめきちがまぎれこんでいたら、うっかり踏みつぶされてしまってもおかしくはない。想像しただけで、身震いがしてくる。  一体、どこに行っちゃったんだろう。  数十分も走れば、疲れが出てきて、走るペースが落ちてくる。  人の群れを避けていたら、いつの間にか、敷地の隅の方に位置するプール入り口にたどりついていた。  夏までは活気に満ちていたこの場所も、プール納めが終わった今では、誰も寄りつかずさびしい場所となっている。まるで、学校内でこの場所だけが、文化祭だということを教えてもらえず仲間外れにされているみたい。  プール周りにはりめぐらされているフェンスに背中をもたれると、弱音がこぼれでた。 「……かめきち。どこにいるの?」 「かめきちというのは、もしかして、この子のこと?」  聞き覚えのある、りんとした、艶やかな声。  弾かれたように顔をあげれば、目の前に、漆黒の燕尾服を身につけた美しい男の人が立っていた。
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