第一章 恋とは一生縁がないのだろう

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 ぺこりと頭を下げると、彼は私にかめきちを手渡してくれた。 「本当は、今もクラスにいなきゃいけない時間なんだけど、疲れちゃって逃げ出してきたんだ」 「へ?」 「そうしたら、校庭で亀が歩いてた。最初は見間違いかと思ったんだけど、何度目をこすってもやっぱり本物でさ。その瞬間、拍子抜けしてふっと肩の力が抜けたんだ。だから、僕の方こそ、この子にありがとうだよ」  彼は、見惚れそうになるほど、やわらかい笑顔を浮かべていて。  滅多なことで動じない心が、一瞬、ふわりと浮かび上がった。 「ねえ。君の名前は、なんて言うの? ちなみに、何年生?」  先輩は、私の返答がないことに焦ったのか、慌てて付けたした。 「もしかして、僕よりも先輩だった!? というか、人に名前を聞く前に、まずは自分が名乗れよって話だったよね。ごめん」  今度は、しゅんとうなだれる。  先輩に犬のような耳があったら、垂れ下がっていそうだ。 「僕は二年の王子慧(おうじけい)です」  くるくると表情が変わるなぁ。  移ろいやすい山の天気みたい。  華やかで、輝きがあって、ただただ圧倒される。  一言で言うなら、眩しい。
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