45人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
ぺこりと頭を下げると、彼は私にかめきちを手渡してくれた。
「本当は、今もクラスにいなきゃいけない時間なんだけど、疲れちゃって逃げ出してきたんだ」
「へ?」
「そうしたら、校庭で亀が歩いてた。最初は見間違いかと思ったんだけど、何度目をこすってもやっぱり本物でさ。その瞬間、拍子抜けしてふっと肩の力が抜けたんだ。だから、僕の方こそ、この子にありがとうだよ」
彼は、見惚れそうになるほど、やわらかい笑顔を浮かべていて。
滅多なことで動じない心が、一瞬、ふわりと浮かび上がった。
「ねえ。君の名前は、なんて言うの? ちなみに、何年生?」
先輩は、私の返答がないことに焦ったのか、慌てて付けたした。
「もしかして、僕よりも先輩だった!? というか、人に名前を聞く前に、まずは自分が名乗れよって話だったよね。ごめん」
今度は、しゅんとうなだれる。
先輩に犬のような耳があったら、垂れ下がっていそうだ。
「僕は二年の王子慧です」
くるくると表情が変わるなぁ。
移ろいやすい山の天気みたい。
華やかで、輝きがあって、ただただ圧倒される。
一言で言うなら、眩しい。
最初のコメントを投稿しよう!