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私の気など知らずに、王子先輩はマイペースに話しかけてくる。
「それにしても、こんなに高さのあるケージから、どうやって脱走できたの?」
「これは新調したものなので。以前はもう少し背の低いものを使っていました」
「なるほどね」
聞かれたことだけに、淡々と答えるスタイルを維持。だけど先輩は、私の失礼な態度を気にした様子もない。
「亀って、どちらかというとのろまなイメージがあるじゃない? だけど、脱走とかしでかしちゃうぐらいパワフルなんだね。意外だなぁ」
「実は素早いんですよ。うちのかめきちはリクガメなので、これでものんびりとしている方ですけど、ミズガメはもっと機敏です」
「そうなんだ」
ケージをのぞきこみながら、感心したようにうなずく先輩。かめきちも、彼の驚くほど整った顔に興味があるのか、じっと見つめている。
「ところで、先輩は、何をしにここまでやってきたのですか」
「さっきも言ったでしょ? この子に会いたかったんだよ」
ふむ。
どうやら、王子先輩は、かめきちの虜になってしまったらしい。
かめきち、お前ってやつは罪な子だなぁ。
正直、厄介なことになりそうだから、あまり関わりたくはないけれど。
かめきちに惚れたと言われて、悪い気はしない。
亀好きに悪い人はいないもんね。
「それと、飼い主の君にも」
……チャラいところは疵だけど。
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