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奇しくも王子先輩が生物部に訪れるようになってから、一週間近くが経過した頃に、異変は起こった。
放課後。今週は掃除当番なのでいつもより遅れて生物室を訪れようとしたら、普段は人通りすらない部室の前に大量の女子が群がっていたのだ。
……なんだこりゃ。
私の足音に、一人の女子生徒が勢いよく振り返った。
「あなたは、もしかして生物部の部員の方?」
ストレートの長い黒髪が印象的な、すこしキツめの顔立ちの美人さんだ。緑のラインの上履きを履いているということは、二年生の先輩か。
「そうですが。なにか生物部にご用ですか?」
「ええ。生物部に興味があって来たのだけれど、見学をしても良いかしら?」
「ここにいる皆さん全員ですか?」
ざっと見た限り、十人はいるんだけど……。
狭い生物室にこんなに人が入ったら、ぎゅうぎゅうづめだ。
「そうよ。なにか言いたげな顔をしているけれど、ダメだと言いたいの?」
ばっちりとアイラインを引いた、意志の強そうな瞳が吊り上がる。
ハッキリとした物言いをする人だ。気の弱い子だったら、簡単に怖気づいてしまいそう。
「ダメとは言わないですが、部室があまり広くはないもので。どうしてもというのなら、順番制にしていただきたいのですが」
「えー、めんどいよー。そうはいっても、入れなくはないんでしょ?」
「もしかしてぇー、この子、あたし達に難癖をつけて王子くんを独り占めしたいだけだったりして」
「いやいや、さすがにそれは身のほど知らずでしょ。王子くんがこんな地味子を相手にするわけがないって」
あぁ。なるほど、ようやく理解した。
この人たちの目的は、あくまでも王子先輩ということか。
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