第一章 恋とは一生縁がないのだろう

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「ふーん。そういうものなんだ」 「反応うっっっす! 毎度のことだけど佳奈って恋バナにまったく興味ないよねぇ。華の女子高生なのにさぁ」 「うーん。別に、女子高生の全員が、恋愛に価値を見出すわけではないと思うけどな」 「えー、そう? そういうものかなぁ」  るりは納得しきれない様子で頬杖をついた。 「……もしかして、佳奈にとっては、あたしの真ちゃん話って実は退屈?」  今度は、茶色の髪を指に巻きつけながら、うかがうように私を見つめてくる。  ここで不安を抱かれるのは、中学時代からの親友として心外だ。 「ううん。面白いよ」 「ホントウに?」 「うん。正直、恋についてはよくわからないけど、るり心底楽しそうだし」  思ったままのことを口にしたら、彼女はいきなり口元をおおった。  そうかと思えば、次の瞬間、私は思いっきり抱きつかれていた。  女の子らしい甘い香りが鼻をくすぐる。 「~っ。あたし、佳奈のことも真ちゃんに負けないぐらい大好きだからね!」 「はいはい」  坂本(さかもと)るり。  私の親友は、恋に一生懸命なかわいい女の子。  彼女の恋は、ちょっと普通ではない。  先ほどからナチュラルに『真ちゃん』と呼ばれている彼、原真司郎(はらしんじろう)星燐(せいりん)高校の物理教師だ。私たちが所属している生物部の顧問でもある。  るりにとっては、近所のお兄さんで、幼馴染のような関係らしい。  そうはいっても、生徒と教師だ。  恋愛事にうとい私でも、難しい恋であるとわかる。  るりは、叶わないかもしれない恋に、どうしてここまで心を傾けられるのかな。  私、羽鳥佳奈(はとりかな)には、親友の気持ちがわからない。 「るりは、すごいよね。……私には、そういう気持ち、わかる気がしないなぁ」  そもそも、少女漫画や恋愛小説を読んでも、ピンときた試しがない。ドキドキもしなければ、憧れる気持ちすらわいてこなかった。  私には、人らしい心というものが、すこし欠けている自覚がある。 「すごいっていうか……気がついたら、好きになってただけだよ。きっと佳奈にも、そういう瞬間がやってくるよ」  照れくさそうな親友はきらきらとしていて、遠い存在に思えた。  こんな私は、恋とは、一生縁がないのだろう。
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