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「ねえ、王子くん。この子の名前はなんていうの?」
「ねえ、王子くん。この子の好きな餌はなぁに?」
「ねえ、王子くん。王子くんの好きな食べ物はなに?」
「どさくさにまぎれて、生物じゃなくて王子くんのこと聞いちゃってるし~」
いつになく人口密度が高く、桃色の空気が蔓延している異色の生物室。
私が空気に徹しながら餌やりをしていると、それまで飼育ケースの掃除をしていたメガネくんがついにブチぎれた。
「ええい! 王子王子うるせえわボケナスッッ!」
!?
「さっきから、ピーチクパーチクうるさいんだよ! 君たちはこの神聖な部室をなんだと思っているんだ! 生き物たちが怖がっているのが目に入らないのか! 迷惑だ! おしゃべりをしたいのなら他でやってくれ!!」
メガネくんの魂の叫び声が、生物室に重たい沈黙を落とす。
まさか、ひょろい彼から、こんなにも大きな声が出たとは。私ですら驚いた。
王子先輩目当てで押しかけてきた女子たちは、みんなバツが悪そうに口を閉じている。真剣に怒っているメガネくんを前にして、軽口もたたけない。
だけど、謝ろうとする人はいないんだな。
落胆の気持ちがにじみでてきた、その時。
「……申し訳ない」
誰よりも早く謝罪の言葉を口にしたのは、王子先輩だった。
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