第二章 学園の王子さまは私の愛亀に夢中

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「君の言う通りだよ。生き物たちも、怯えきってしまっている。謝ってすむような話でもないけど、本当にゴメン」  メガネくんの前に立ち、深く深く、頭を下げる。  それまで額に青筋を立てていたメガネくんも、先輩のひたむきな謝罪に毒気を抜かれたようで、返す言葉をうしなっていた。 「迷惑、だったよね」  顔をあげた先輩は、頬をかきながら困ったように笑ったけれど。  今にも泣きそうに見えたのは、私の気のせい? 「じゃあね。怒ってくれて、ありがとう」  メガネくんの返答を待つこともなく、王子先輩は生物室を出ていった。 「……ええと。ごめんなさい?」  他の女子たちも、彼を追いかけるようにして生物室を飛び出していく。   その様を見届けたメガネくんは、大きく息を吐きだした。 「久しぶりに大きな声を出したから、今日はもう疲れたよ」 「うん」 「やっと、生物室に平和が戻ってきたなぁ。ようやくまともに活動ができるよ」 「……うん、そうだね」  そう。  この静けさこそが、私の求めている平穏だ。  そのはずなのに、このもやもやとした気持ちはなんなのだろう。 「羽鳥くん、どうかした?」 「ううん。ただ、ちょっとね」 「ん?」 「いや、なんでもない」 「歯切れが悪い羽鳥くんなんて珍しい」  喉に魚の骨がつかえているみたいな違和感。  あぁ、そうか。  私は、王子先輩が悪いことをしたわけではないのになぁって思ったんだ。
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