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彼はやさしく私の腕を引くと、ベッドの上に座らせてくれた。
「傷口は洗ってきたようだね」
うなずくと、先輩は救急箱からガーゼを取り出して、痛々しく血を流している患部をそっと包んだ。
「まだ、痛むよね?」
「……はい。リレーで、派手に転んだんです。自業自得ですよ」
「そんなことないよ。羽鳥さんは、偉いと思う」
「どこがですか? クラスに迷惑をかけて、このざまなのに」
ブツブツと、つい情けない文句を垂れてしまったら。
「だって、それも、ちゃんと参加したからこそじゃないか。逃げ出した僕からしたら眩しいぐらいだよ」
へ? 逃げ出した?
「止血はできたようだね。消毒液、染みるかもしれないけど、すこしの間だけ我慢して」
次の瞬間、ヒリリとした鋭い痛みが膝中に走った。
消毒液が染みる!
「ごめんね。痛いと思うけど、ちゃんと消毒しておかないと」
「っっ。……あのっ」
「ん?」
「さっきの……逃げ出したって、どういうことですか」
気になって、尋ねると。
王子先輩は、あー……と答えづらそうに、視線を逸らした。
「そのまんまの意味だよ。つまり……バックレたってこと」
「はぁ。なぜ?」
先輩こそ、体育祭を誰よりも楽しみそうなのに。
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