第二章 学園の王子さまは私の愛亀に夢中

17/20

45人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
 彼はやさしく私の腕を引くと、ベッドの上に座らせてくれた。 「傷口は洗ってきたようだね」  うなずくと、先輩は救急箱からガーゼを取り出して、痛々しく血を流している患部をそっと包んだ。 「まだ、痛むよね?」 「……はい。リレーで、派手に転んだんです。自業自得ですよ」 「そんなことないよ。羽鳥さんは、偉いと思う」 「どこがですか? クラスに迷惑をかけて、このざまなのに」  ブツブツと、つい情けない文句を垂れてしまったら。 「だって、それも、ちゃんと参加したからこそじゃないか。逃げ出した僕からしたら眩しいぐらいだよ」  へ? 逃げ出した? 「止血はできたようだね。消毒液、染みるかもしれないけど、すこしの間だけ我慢して」  次の瞬間、ヒリリとした鋭い痛みが膝中に走った。  消毒液が染みる! 「ごめんね。痛いと思うけど、ちゃんと消毒しておかないと」 「っっ。……あのっ」 「ん?」 「さっきの……逃げ出したって、どういうことですか」  気になって、尋ねると。  王子先輩は、あー……と答えづらそうに、視線を逸らした。 「そのまんまの意味だよ。つまり……バックレたってこと」 「はぁ。なぜ?」  先輩こそ、体育祭を誰よりも楽しみそうなのに。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加