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本気でわからなくて首を傾げると、今度は傷口に大量の消毒液を吹きかけられて、あまりの刺激にのけぞった。
「痛いですっっ! なにするんですか!?」
「……体育祭を楽しめるのは、足が速いやつだけだよ」
「は?」
爽やかな先輩から出たとは思えぬ低い声に、痛みでしかめた顔を上げると。
うつむいた彼の耳は、ほんのりと赤く染まっていて。
「そーだよ、僕はどーせ足が遅いよ。それなのにさ、なんだか知らないけど、みんなが王子は足が速そうだって勝手な勘違いをしてるんだ。ホンット良い迷惑だよ! 走るのが嫌すぎて、今日はバックれてやったんだ」
ぽかーん。
びっくりしすぎて、膝の痛みも忘れて口が半開きになってしまった。
お腹に溜まっていたらしい鬱憤を吐きちらした彼は、ぽかんとする私を見上げて、ハッと我にかえった。
「あっ……えと、その。ははっ……君も、幻滅した? 王子だなんて名前のくせに、運動ができないなんてダサいよね」
慌てた先輩が取り繕った笑顔は、完璧だけれど、どこか悲しそうで。笑っているのに、自分の言葉に傷ついているように思えた。
「たしかに驚きましたけど、べつに、幻滅とかはしていないですよ」
「えっ」
「それどころか、むしろ、親近感がわいたかも」
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