第二章 学園の王子さまは私の愛亀に夢中

18/20

45人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
 本気でわからなくて首を傾げると、今度は傷口に大量の消毒液を吹きかけられて、あまりの刺激にのけぞった。 「痛いですっっ! なにするんですか!?」 「……体育祭を楽しめるのは、足が速いやつだけだよ」 「は?」  爽やかな先輩から出たとは思えぬ低い声に、痛みでしかめた顔を上げると。  うつむいた彼の耳は、ほんのりと赤く染まっていて。 「そーだよ、僕はどーせ足が遅いよ。それなのにさ、なんだか知らないけど、みんなが王子は足が速そうだって勝手な勘違いをしてるんだ。ホンット良い迷惑だよ! 走るのが嫌すぎて、今日はバックれてやったんだ」  ぽかーん。  びっくりしすぎて、膝の痛みも忘れて口が半開きになってしまった。  お腹に溜まっていたらしい鬱憤を吐きちらした彼は、ぽかんとする私を見上げて、ハッと我にかえった。 「あっ……えと、その。ははっ……君も、幻滅した? 王子だなんて名前のくせに、運動ができないなんてダサいよね」  慌てた先輩が取り繕った笑顔は、完璧だけれど、どこか悲しそうで。笑っているのに、自分の言葉に傷ついているように思えた。 「たしかに驚きましたけど、べつに、幻滅とかはしていないですよ」 「えっ」 「それどころか、むしろ、親近感がわいたかも」
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加