第二章 学園の王子さまは私の愛亀に夢中

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 王子先輩は、信じられないというように、ゆっくりと瞬きをしている。  だけど、これは私の飾らない本心だった。 「私も、体育祭なんてなくなってしまえば良いと思っています。だけど、先輩のようにいかにも運動ができそうな人には、絶対にわかってもらえない気持ちだと思ってた。ふふっ。先輩にも、案外、人間らしいところがあるんですね」  こんなにかっこいい先輩が、実は運動音痴で、しかもそのことを気にしているなんて。  かなり意外だ。  ちょっと、かわいいかも。  思いがけない発見に、くすくすと笑ってしまう。 「人間らしいところがあるって……君は、僕のことを一体なんだと思っていたの?」  瞳を丸くした先輩も、つられるようにして笑っていた。  止血を終えると、彼は傷口に大きめの絆創膏を貼ってくれた。  なりゆきとはいえ、王子先輩に怪我の手当てをしてもらっただなんて。これは、誰にも言わない方がよさそうな案件だ。主に身の安全を守る意味で。 「ありがとうございます。助かりました」 「いえいえ。ところで、ちゃんと謝れていなかったけど、この前はごめんね。君たち生物部員に、迷惑をかけてしまった」  彼が、さびしそうに笑った時、あの日に抱えた胸の中のもやもやがまたうずきだした。
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