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「僕、昔から、いつもあーゆー感じなんだよね。だから、あえて高校では部活に入らなかった。まぁ、僕自身にも非はあるのかもしれないけど」
「謝らないでください」
うつむいていた先輩が、ハッとしたように顔をあげる。
彼は、自分にも非があるというけれど。
少なくとも、あの日の彼は、なにも悪いことをしていなかった。
「別に、先輩は悪くないです。悪いことをしていないのに謝られるのは、なんだかモヤモヤします。だから、謝らないでください」
やっと、言えた。
ちゃんと伝えられたら、胸の中のわだかまりがほどけたように思えた。
「メガネくんの言う通り、生物室が女子でひしめきあうのは私も困りますが……たまに、こっそりとかめきちに会いに来るぐらいなら、彼も文句は言わないと思います」
先輩は、こんなに辛そうな顔をするぐらい、かめきちに会いたいんだものね。それなのに、女子にモテすぎるからダメだなんて、考えてみれば酷な話だ。
「それって、また、生物室に行っても良いってこと?」
「ええ。放課後直後ではなく時間をずらして、裏口から入っていただければ、恐らくみなさんにもバレないでしょうし」
きょとんとした顔をした先輩は、なんだか幼く思えた。
「亀好きに悪い人はいないですから」
「ふふっ。ありがとう、羽鳥さん」
先輩は、無邪気な少年のように、本当に嬉しそうに笑った。
「やっぱり、いつもそうやって笑っていた方が良いと思います」
自然にこぼれでた本心に、彼はやさしく瞳をほそめた。
「そっか。羽鳥さんの前では、自然と笑えるみたい」
もしも私にまともな理性があったら、恋に落ちていたかもしれない。そんな考えが頭をよぎるぐらい、その表情は魅力的だった。
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