間章その1 王子さまの知られざる苦悩

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「あれ!? 王子くん、どこ行った?」 「さっきまで、教室にいたよね?」 「おっかしいなぁ……一緒に帰りたかったのに」  疲れて一人になりたい時は、男子トイレの個室で、息をひそめるほかない。 「ひゃははっ。王子、まーた、女子たちからかくれんぼしてんの?」 「あーあ。俺も人生で一回ぐらいは、困るほどモテてみてえなぁ」  そのせいで、男子からは笑われるわ、嫉妬されるわで散々だ。  他人事だと思って、適当なことを言いやがって。  代われるものなら、代わってくれよ。  自分で言うのもなんだが、僕、王子慧は昔から異様なほどモテる。女の子たち曰く、甘いマスクで整った顔立ちなのだとか。  なにも考えずに過ごしていた中学時代は、思い出すだけでも眩暈がしてくるほどガチ告白の嵐だった。  断って泣かれるたびに、自分が悪者になったかのような罪悪感にかられた。思い出すだけでも、息苦しい毎日。  その苦々しい失敗を踏まえて、高校に入ってからは、軽薄そうな軟派キャラにおさまろうと決意した。
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