間章その1 王子さまの知られざる苦悩

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 スクールバッグにあらゆる教材を詰めこむと、パンパンに膨れ上がった。  本当は、僕だってみんなと同じように置き勉をしていきたい。だけど、そういうわけにもいかない理由がある。 「おー、王子か。今日もすごい騒がれようだったなぁ、お疲れさん」  顔をあげれば、担任の原先生が教室に顔をのぞかせていた。  黒い髪に切れ長の瞳、白衣をなびかせている先生は、今年で二十四歳になる新米教師だ。気だるげでゆるい空気感が、一部の女子には人気らしい。 「お前、なんで、そんなに荷物がパンパンなわけ? 帰宅部のくせに」 「教材は、全部持って帰るようにしているんです」 「はあ? もしかして、資料集とかも全部? お前ってそんなに勉強熱心だったっけ。放課後は、かわいい女の子とちゃらちゃら遊んでんじゃねーの?」 「失礼極まりないですね」  この人は、なぜ教師になれたのだろう。  仮にそう思っていたとしても、普通、口には出さないでしょ。 「遊んでいるかどうかはともかくとして。ぜんぶ持って帰らないと、面倒なことになるんですよ」 「面倒?」 「盗まれたりするんです」
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